麻瀬憧庵                                 

前スピーカーの改良報告


こちらは昔のシステムの改良を試みた時の作業報告です。
今もこれらのユニットを使用している方もいらっしゃるかもしれないので残しておきます。 何かのお役にた
てれば幸いです。

 『水晶さざれ石』の最後に 『目の前にある機材の能力を100パーセント使い切っている等と言う方はまず存在しないでしょうから。』 と書いたのですが、最近うちのシステムの限界に到達してしまったようで、不満点を改良しようとしても全く満足のいく音に至らなくなってしまいました。

クロスオーバー周波数を微妙に変え、各スピーカーの音量を調整し、という作業をいくら積み重ねても、思った様に改善されず不満が募るという状況に陥ってしまいました。
でっ、原因としましてははっきりしている訳で、つまりスピーカーの能力不足が顕わになったという事でしょう。

 以前のスピーカーシステムは、JBLの LE−14A というウーファーに 2130 というフルレンジ、LE85 というドライバーにパイオニアの PT−R7 というリボンツィーターを自作ネットワークで分割した4ウェイシステムを組んでいたのですが、当時は今の様な部屋の音響や、ケーブルのインピーダンス変化がもたらす音への影響についての知識は持ち合わせておらず、いくら時間を費やしても思った様な音は出ず、イライラばかりが募るような状況でした。

そのような時にネットで色々な知識を吸収し、少しづつ開眼し始めた時に、巷で評判になっていたJBLのPA用のスピーカー JRX−115というのを購入しました。

当時ちょっとお金が要り様な事もあり、手持ちのアナログ機材を全てヤフオクで処分したのですが、この安物スピーカーが噂の様な物なら、今までのスピーカーを売る事でかなりな差額が出ると踏んでの事でした。

 早速試聴してみると、濁りの少ない爽やかなジムランサウンドが溢れ出て来ましたので、これは使えるかもしれないと思ったのですが、如何せん低音が足りない。というより全く低音が無いという感じでしたので、低音増強用に LE−14A と、超高音用にリボンツィーターを加えた4ウェイシステムとしました。

でっ、その後、このホームページに書いた様々な事を試み音質の改善に取り組んできた訳ですが、途中でこのシステムのネックがハッキリ見えて来ましたので、いつかその部分の改良に取り組もうと思っていたのですが、ここに来てやっとその材料が揃いましたので、改良作業に着手する事にしました。

この JRX−115 というスピーカーのネックはドライバーの特性にあります。
ここに使われているドライバーは 2412H−1というものなんですが、これには2つの欠点があります。
ひとつは2kHzから上にいくに従って、オクターブ当り6dB減衰していくというもので、もうひとつは1.8kHz以下は急峻に減衰してしまうので、ウーファーとのクロスはこれ以上を選ばなければならないというものです。

この −6dB/oct という特性を使いこなす事は簡単で、ずーっと上から動作する−6dB/octのローカットフィルター(ハイパスフィルター)を入れてやればよいという事で、つまり直列にコンデンサーを入れてあげればよいという事です。

  これに関しましては、こちらの 『JRX−115の使いこなし術』 で詳述します

 問題はこの二つ目の特性で、ドライバーとのクロスを1.8kHz以上にとると、当然それ以上の高音もウーファーから出る事になるのですが、本来38cmウーファーのコーンが直線的に動き、フラットな周波数特性を維持できる周波数は500Hz位までで、それ以上の周波数では、エッジ近くのコーン周辺部分で分割振動が起こり、フラットな特性を維持する事は困難になり、かなり暴れた特性になってしまいます。

つまり、ウーファーの最高の性能を引き出す為には、よりローレンジまで再生できるドライバーが必要な訳で、当然、組み合わせるホーンも、より低い周波数までフラットに再生できる物でなければならないという事になります。

という訳で、この条件を満たすドライバーとして、JBLの 2426Hというユニットと、さらには 2370Aというホーンを手に入れました。この組み合わせなら800Hz前後までクロスオーバー周波数を下げられます。

このスピーカーの改良を計画し始めた頃、大阪にある、 『リテイルマネジメントというスピーカーの修理をやっている会社のホームページを見つけました。
     
このホームページでは、過去に修理をした数百種類ものスピーカーの特性が公開されており、私が使用している物の特性も見る事が出来ました。

Mー115                            LE−14A
 

 左が JRX−115のウーファーで、右がサブ・ウーファーとして使っている LE−14Aの特性です。
どちらもフラットなのは500Hz位までで、特にM−115の方はそれ以上から3kHz位までの暴れが目立ちます。
低音域も LE−14A の方が特性が良いみたいです。

このグラフを見ていて、いっそのこと M−115 を LE−14A に付け替えたらどうだろう、これ一つで低音部も賄えるんじゃないのかなと思いました。

がっ、しかし、ここである事に気付きました。
このグラフの緑色の線で描かれている特性は、1kHzに信号を付加した場合の他の帯域での反応(歪、ビビり等のノイズ全般)を表しているとの事ですが、これつまり、このスピーカーのSN比を表すグラフという事ですよね。
右のLE−14A の場合、1kHzの信号の大きさと他の帯域での再生音圧の差が約40数dB位であるのに対して、M−115では、1kHz以下の部分では60dB以上あるという顕著な差が表示されています。但し、1kHz以上では、非常にノイズが増えるという事も表示されていますね。

ー40dBとは、100分の1、つまり1%という事ですが、さらに−20dBという事は、この値の10分の1、つまり0.1%という事になり、この様な特性を備えているスピーカーは、このサイトの特性図を見た限りでは、かなり少ないようでした。

LE−14A の様な、40年位前のオーディオ全盛期に売られていたビンテージスピーカーの場合、このー40dBという値は結構一般的で、良くてー50dB位ですので、このー60dBという特性を持つスピーカーとの音の差は一体どの程度で、どのように現れるのか、俄然聴き比べをしたくなりました。

 昔々、オーディオにはまり始めて数年の時、このLE−14AとLE−85というドライバーとパイオニアのPT−R7というツィーターで3Wayを組みスピーカーの製作、調整に長い間取り組んだのですが、 LE−14A のウレタンエッジが、ごたぶんにもれず使用10年程で腐って崩れ落ちてしまった為、販売店に聞いたところ、修理代1本三万円也、船便往復で一カ月掛かりますと言われ、そりゃ堪らんという事で、当時評判になっていた鹿皮エッジに張り替えてみました。

ところが特性が大幅に変わってしまったみたいで、ジムランの特徴である中音部の張り出し感が全く影を潜め、つまらない音になってしまいました。そこで、200Hz位までをこのウーファーに受け持たせ、それ以上〜1.2kHz位までを2130 というフルレンジユニットに持たせる事にして、4ウェイシステムに移行ししました。

という訳で、この二つのウーファーを比較試聴する為に、LE−14A のエッジを再度ウレタンエッジに張り替える事にしました。

    作業レポートはこちら ⇒ LE−14Aのエッジの張り替え

その後ドライバーの交換作業に入りました。
このドライバー、ホーンともオリジナルの物より二回りは大きい物で、そのままでは交換できません。
特にホーンの横幅は前面バッフルの幅よりも大きく、サイドの壁に掛かってしまう程ですので、一工夫必要です。

    作業レポートはこちら ⇒ JRX−115のドライバーとホーンの交換

 ドライバー交換後、早速 LE−14A を取り付けて、ドライバーとのクロスオーバー周波数を800Hzとし音を聴いたところ、一言でいえば寝ぼけた音が出て来ました。

音の輪郭にシャープさが無く、薄いベールに包まれた様な、ハッキリ見えないと言える様な音でした。
この実験はあまりにも顕著な差が出てしまった為あっという間に終了。 元の4ウェイで使う事にしました

やはり、このSN比のグラフが表している差が音に出ているのでしょうか。
もっとも、何せ古いスピーカーで、アルニコマグネットは使う程その磁力は低下して行きますし、更にエッジの張り替えもあまり上等な出来ではありませんので、この差だけとは申せないとは思いますが。

 その後、元の4ウェイを組み試聴したのですが、音の改善具合は目覚ましく、特に楽器の音は別物とも言える程良くなり、ブラスのみならずピアノやギターなどの絃物も色気を感じられるほどになりました。
ウーファーの分割振動帯を出来るだけ避ける為、ウーファーとドライバーのクロスオーバー周波数を下げ、更にドライバーの性能をアップさせた事がこの結果を導き出したのだと思われます。

やはりスピーカーにおいては、より軽い振動板をより磁束密度の高いマグネットで動かす方が、瞬発力、制動力とも向上し、音の質は圧倒的に高くなるのでしょう。

中音部以上においてもダンピングが効いている事は重要で、今まで感じていた、コントロールされていない様なとんがった音、耳の中ではじける様な刺激的な音の出方がかなりまろやかな感じになりました

 ここまでの改造で低音部から中高音部にかけての音はとても向上し、音そのものの厚さやコクが増し、音のエッジもシャープかつ太くなり、密度感もアップし、存在感や実在感という物も息が吹き込まれたように感じる事が出来る様になったのですが、これにより、ツィーターの音のキャラクターの違いが際立つようになって来て、少し不満に感じるようになりました。

PT−R7というツィーターは、100,000Hz(100kHz)まで再生できるという事を売りにした物なのですが、最近、長時間、ドライバーとツィーターの音合わせをしている時に、この超高域再生の優位性に疑問を感じる様な経験をしてきました。

ドライバーとツィーターのクロスを7〜9kHzの間で変化させ、二つの音量を少しづつ変化させ最適点を探すのですが、ドライバーだけの音の場合、粗さが目立ち、フォルテで音が割れたり耳の中で弾けたりしていた物が、ツィーターを加えると軟らかく優しい音に変化し、実在感もアップし、目の前に浮かびあがる感じも強く出てくるようになるのですが、引き換えに音の密度が少し薄れ、音の厚さも削がれていく様な感じを受け、音の輪郭もはっきりはするのですが細くなったように感じられます。

例えば、HBの鉛筆で書かれたデッサンと2Hの鉛筆で書かれたそれとを比べた感じと申しましょうか。 
まぁ、これほど大きな差ではないのですが、いったいこの差はどこから来るのでしょうか?

希望としては、音の密度が高いまま、太く厚く、輪郭もガッシリしたまま刺激的な暴れのない、実在感満載の音が聴きたい訳です。

この音が細くなる原因がツィーターのどの部分にあるのか。
JBLとパイオニアのキャラクターの違いなのか、超高域再生から来る必然的な物なのか、それとももっと他の要因が絡んでいるのか? などと考え始めた矢先、あるツィーターとPT−R7の測定データを比較する事ができ、その差が及ぼす音の差についても想像をめぐらす事になりました。

以上の様な様々な疑問が生じてしまいましたので、もうこれは実際に比較検討するしかありません。

という訳で、買ってしまいました JBL2405

これは、PT−R7とほぼ同時期に売られていた製品なのですが、私も購入時にどちらにするか迷った末に少し安かったのと、やはり、100,000Hz(100kHz)まで再生できるという事に意味もなく惹かれPT−R7を購入した経緯があります。

さて、2405を導入した結果はと申しますと、やはり音の厚さ、太さが違います。
ドライバーとの音のキャラクターに違和感を感じる事が無くなり、音の全てに実在感が増しました。

更に、ドライバー交換後も感じていた不満点もほぼ全て解消しました。

いや〜、買って良かったぁ〜!!

これならあの時こちらを買っておけば良かった、とも思うのですが、やはり、順番に下からドライバーまで上手く積み上げてきたので、このツィーター交換による音の差がこれほどはっきり認識できたのでしょうから、今までの歩みは間違ってはいなかったと言えるでしょう。

    試聴レポートはこちら ⇒ JBL 2405 と PIONEER PT-R7 比較試聴記

                                                       2015年7月6日・記

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