麻瀬憧庵                                 

RADIAN ダイアフラム


 音を聴いていてもそうなんですが、周波数特性を測定していてちょっと気になった部分がありました。
それは、JBL2461の高調波歪みが他のユニットに比べちょっと大きいということなんです。
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 左の周波数特性測定グラフの 1)、2)JBL2482の2次高調波レベルを、3)JBL2402の高調波レベルを表したものなのですが、2482では 1kHz近辺では42dBですが、1,5kHz以上ではほぼ45dB位は信号音との差があり、更に、2402においては、ほぼ48dB程の差があります。

それに対して、3kHz〜7kHzを受け持たせている 4)JBL2461では、3kHz以上で急峻に悪化し始め、5kHz手前で40dBを切ってしまい、そのままの状態が7kHzまで続きます。

うちのシステムでは、450Hz〜3kHzを受け持たせている2インチドライバーの JBL2482と3kHz〜7kHzを受け持たせている 1インチの JBL2461ドライバー共、フェノリックダイアフラムというリネンにフェノール樹脂を含侵させた振動板を使っているのですが、このダイアフラムはかなり特徴的な音質で、太くて重く、輪郭がはっきりしていて定位が良く、アコースティックの高音の響きの中にも芯が感じられるような、まさに私の好みにぴったりな物なのです。

特に音の輪郭のくっきり感は顕著で、まるで、漫画やイラスト、浮世絵のように輪郭線を使用する絵のように感じられたりもします。
 初め、なるべくフェノリックダイアフラムの音に統一させたかったので、2461は9kHzまで受け持たせていたのですが、周波数特性を測定しているうちに、この2461の高調波の多さがどうも気になり始め、7kHzで2402とクロスさせるようにしましたが、音的にはあまり変わりませんでした。

この信号周波数と高調波のレベル差がー40dBの時、一般的には「高調波歪み率1%」と表示されます。
そして、この高調波歪み1%が、脳が歪みを認識できるか否かのボーダーラインだと言われています。
因みに、6dB増減するごとに、2倍、又は2分の1になりますので、ー46dBなら「高調波歪み率0.5%」と優秀な数字となります。

と言う訳で、1%以上ある2461の高調波歪みが輪郭線を生み出しているのではないのだろうかとふと考えるようになりました。
元々、この部分には、この1ランク上の JBL2470という同じくフェノリックダイアフラムを使用したユニットを使いたかったのですが、なかなか手に入れることが難しくこちらを入手して使ってきたのですが、このように歪みが気になり始めたからには何か手を打たなくてはなりません。

と言う訳で、超低歪みをうたい文句にしている 『RADIAN』のダイアフラムに交換してみることにしました。
 

 

 
 2枚で 35,000円ほどしました。 お高いですね。

早速交換。 交換自体は非常に簡単。
JBLのツィーターの場合は半田ごてが必要ですが、ドライバーの場合はプラスドライバー1本で用が足ります。

但し、強い磁力に引っ張られて、ダイアフラムに傷をつけないよう細心の注意が必要です。 ドライバーの先端に左手を添えてしっかりと固定しましょう。

まずは既存のダイアフラムを取り外し、フェーズプラグを点検。汚れがあればふき取り、新しいダイアフラムに交換。
ガイドピンがあるので、ボイスコイルも自然にギャップにはまってくれます。

インピーダンス16Ωのものを購入したのですが、DCRは6,8Ωでした。
まあ、普通こんなもんですね。
 まずは片側だけ交換し左右の比較試聴をしました。

ちょっと柔らかくなった感じ。 別に変なところはないのでもう一方も交換。

能率に違いがあるかもしれないので、まずは特性を測定し、レベルをある程度合わせてから本格的に視聴することにしました。
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1)はフェノリックダイアフラム装着のJBL2461の素の特性。
2)はRADIANダイアフラム装着時の素の特性。

1kHz〜7kHzの特性はRADIANの方が使いやすそうですね。

フェノリックと違いアルミダイアフラムは高域特性がずっと伸びています。人によってはツィーターは必要ないと感じるかもしれませんね。

7kHzからの急峻な盛り上がりはどちらも変わりませんね。
JBLの古いユニットは、ドライバーもツィーターも皆このような特性になっているのですが、これは確信犯なのです。

フェーズプラグのスリットが、こういう特性を生み出すように設計されているのでしょう。
この件に関する考察は、 こちら をお読みください。

3)5)はRADIANダイアフラムのTHD(高調波歪み率)。どの帯域でもー45dBを確保しているようなので、販売サイトで謳っているほどの超低歪みではないものの,、まあまあの線は保っているようですね。

ただ、ちょっと気になる部分がありました。

うちの場合、この2461には3kHz〜7kHzを受け持たせているのですが、この部分の周波数特性だけに限れば、フェノリックダイアフラムの方がフラットで良い物の様に見えます。

6)7) 実際、トータルの周波数特性は、RADIANダイアフラム装着時の凸凹が気になるレベルです。

さて、この高調波歪み率の良化と周波数特性の悪化はどちらがどのように影響し、どのような音に変化するのでしょう。

35,000円が無駄になることも考えられますので、ちょっと怖いですが、ちょっと楽しみな試聴となりました。

一聴したところ、やはりと申しましょうか、輪郭線が見えるようなガッチガチなくっきり感は感じられず、ほんの少し柔らかい音に変化しました。

そして全体的にエネルギーが少し上側に移動したように感じ、音の重々しさがほんの少し削がれて、その分楽器の響きが少し強く感じられるようになりました。
 その上音色も変化しました。 フェノリックの場合、ピアノやサックスの高音部の響きもメタリック感はあまりせず、少しくぐもった様な抑えられたものでしたが、こちらは輝きを感じる明るく伸びやかな響きが続きます。

とは言え、チタンダイアフラムの時の様な変な違和感は感じず、充分気持ちの良い音色です。
フェノリックとアルミは結構相性が良いのかもしれません。

そして、聴き始めて間もなく決定的な違いに気づきました。

それは、反響音、残響音の多さです。 

明らかにその量が増えています。 そして消えゆくまでの時間が伸びています。
そのせいで、空間の、特に奥行きの広がりが感じられ、楽器の配置の前後距離も広がったように感じられます。
おかげで、声や楽器の分離が向上し、その場所にはっきりと存在しているように感じられます。
輪郭線のようなものは感じられなくなりましたが、だからと言って輪郭があやふやにはならず、しっかりと分離独立して存在感を放っています。

これはやはり高調波歪み率の減少による S/N  の向上の結果と言えるでしょう。
思い切って交換したのは大成功だったみたいです。


 これにて全ての機材が決まりましたので、いよいよ最終調整に入りました。
ところがここで思わぬトラブル発生。 
しかし、このトラブルが思いもよらぬ結果を導き出してくれました。   ⇒ 次ページへ

                                                 2024年1月1日・記

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