麻瀬憧庵                                 


Mノイズが空気を汚す


 今まで度々音場なる言葉を使ってきましたが、その音場が現れるとはどういう事でしょう。

 各楽器の演奏者までの距離が忠実に表現されてもそれだけでは満足いく音場が現れる訳ではありません。
本来楽器から発せられた音はあらゆる方向に放射されますから(方向による強弱は別にして)、天井や床、左右の壁や後ろの壁等に反射した音も同時に聴いている訳です。
この時、反射音の方向や大きさ、音源から直接届いた音との時間差、更には反射音に含まれる2次、3次、4次、・・・高調波の成分比率と音源のこれらの比率とのすり合わせ等すべての事を総合した上で、脳にストックしてある過去の記憶から、一番ふさわしいと思われる情景を頭の中に描き出しているのだと思います。これが正に私の考える音場。音場の出現なくして、心の底から楽しめる音はあり得ません。

 つまり、音場の形成に絶対不可欠な物が反射(反響)音なのです。
この反射(反響)音の質と量が、目の前に現れる音場のクオリティーを決定づけるのです。
そしてこの反射(反響)音の中で、音場の出現に大きな影響を与える物が高音なのです。

 一般的に言って低音には方向性がありません。どちらから響いて来たのかその方向は解らないという事です。
サブウーファーは1個で良いとか、どこにおいても良いとか言われる事からお分かり頂ける事だと思います。
つまり低音は音場を出現させるために大きな役目を果たしていません。大事な物は高音の反響音なのです。

「C必要十分条件」の中で、定在波の悪影響を感じた事はない、大事なのは低域よりも高域だと書いたのはこういう事だったんです。

 ここであらためてお断りしておかなければならないのですが、反射(反響)音という言葉を使用していると、今聴いている部屋の中で生じている反射(反響)音の事だと誤解される方がいらっしゃるかと思いますが、そうではありません。
これはあくまで、もうすでにCDの中に入っている、スタジオやホールの壁に反射している音の事です。(「Gヘッドフォンで聴く世界」参照) 実際に聴いている部屋の反射音は本来不必要な物ですから。
昔から、洋室より和室の方が音が良いと言われていたのは、スピーカーから出た音が、襖や障子を素通りして部屋の中に留まらず、従って反射音の影響を受けにくいという事だったのです。

 レコーディングエンジニア、というより今ではミキシングエンジニアやマスタリングエンジニアと呼ばれる人達は、そのCDの中にあらゆる手段を用いて、その音場を封じ込めようとしています。そのエンジニア達のイメージする空間(スタジオだったり、ホールだったり、ライブハウスだったり)は実際にそれを録音した場所とは微妙に異なり、まさしくその人たちの頭の中にある理想の場所なのです。その人達の求めたその最高の空間と最高の音を自分の部屋で再現する。これこそがオーディオファンの目指す究極の目標であるはずです。

 今まで、「Gヘッドフォンで聴く世界」でCDの中にこの音場を出現させる為に必要な反響音がたくさん入っている事。そして「H音が消える」「I音場の出現」の中で部屋のコーナーからの放射音の影響によりスピーカーから出た音波が変形され、結果的にCDの中に入っている反響音が聞こえなくなり、音場が出現しにくくなっている事を書いてきました。

さて、その他にこのCDの中に入っている反響音を聞こえにくくしている要因となっている物はなんでしょう。

ノイズレベルと残響時間
左の図の青い曲線は反響音の大きさを表してい
るとお考え下さい。

あるレベルで聞こえ始めた反響音が時間とともに
減衰していき最後は聞こえなくなってしまいます。
その時の時間を0としますと、最後壁の中に吸い
込まれていくように消えてゆく情景が頭の中に浮か
ぶでしょう。

ここでどうしても存在してしまうノイズを考えてみま
しょう。
N1はノイズレベルが大きい場合です。この時消え
ゆく残響音は点Aのところでノイズにかき消されて
聞こえなくなります。その時の時間は秒です。
ノイズレベルがそれより小さいN2の場合、点Bの
ところまで残響音は聞こえる事になります。
この時の時間を秒とすると、ノイズレベルが小さければ小さい程残響音の聞こえる時間が長くなると共により小さい音まで耳にすることができるという事になります。

このページの上の方で「反射(反響)音の質と量が、目の前に現れる音場のクオリティーを決定づけるのです。」と書きましたが、正にこのノイズが反射(反響)音の質と量を決定づける要因の一つなのです。

よくオーディオを語る時に「音の見通しが良い」等と言う事がありますが、この空気の透明感を表現しているような言葉使いこそ、ノイズの多少を表しているのです。

 一般的にノイズと呼ばれる物は、大きく分けて二種類存在しています。
一つは空気中に漂う音楽成分以外の雑音。特に昼間は外から入ってくる生活雑音のレベルは相当高いのではないでしょうか。それは夜中に外に出てみると、昼間とは全く違う静けさを感じられることから良く解りますね。
実際、昼間よりも夜聴いた方が良い音に聴こえると感じるんですが、皆さんは如何でしょう?

 この雑音には家庭内の色々な機器から出る音や、あるいはオーディオ機材その物から出る音(たとえばトランスのうなり音その他)等もあります。
これらの音は、たとえ音として認識できなくても、部屋の中に漂っているように存在し、スピーカーから出てくる音をマスキングしています。

 もう一つは音楽信号がオーディオ機材の中で処理されて、最後スピーカーから出てくる途中に付帯してしまう物。
それは、機材その物が持つ残留雑音だったり、信号が送られるケーブル内で付帯してしまう物だったりします。

次章では、私が実際試してみて、この付帯してしまうノイズを極力減らす為に有効だった事を書きます。   

2012年10月11日・記


ページトップへ                          前へ         次へ