JRX−115の使いこなし術
7,8年も前でしょうか、 ネット上の一部オーディオファンの間で話題になっていたJBLのPA用スピーカーの
JRX-115ですが、当時私もその噂につられて購入してしまいました。
このスピーカー、今でも使っているという方は少ないのではないかと思うのですが、当時、何しろ値段が安く、それなりのジムランサウンドが聴けるというコストパフォーマンス抜群のスピーカーでした。
このスピーカー、オリジナルのまま使っていれば何も問題はないのですが(低音が全然出ないという事はおいといて)、ネットの中では、オリジナルネットワークに手を加えるという改良(実は全く改悪だったりするのですが)を施した記事が溢れていました。
挙句の果ては、チャンネルデバイダーで周波数帯域を上下に分割し、ウーファーとドライバーを別々のアンプで駆動するという、マルチアンプ方式に移行するのが一番良いという事になり、皆さん、そのような方式を取り入れた様なのですが、実は、これに使用されている
2412H−1というドライバーには、周波数特性的に重大な欠陥があり、その欠陥を上手く処理したのがオリジナルネットワークだった為、そのままマルチアンプに移行した場合、納得いく音は絶対出ない筈なのですが、このスピーカーのマルチアンプ化を推奨するサイトに寄せられるコメントにはそのような不満が書き込まれている様子はありませんでした。
私も元々ネットワークをいじくるのが趣味という事もあり、早速オリジナルネットワークを作り調整に励んだのですが何か変なんです。
いくら素子の値を変え、アッテネーターでウーファーとドライバーの音量を合わせても、なんとも納得のいかない音しか出てこないんです。
ある時、昔使っていた周波数特性測定用のレコードでこのスピーカーの特性を測ってみたら中高音部がヘンテコリンなんです。
あらためてドライバーだけの特性を何度か測った末にたどり着いた結論として、このドライバーは、2kHz以上の周波数帯域において、約ー6dB/oct という特性を有しているというものでした。 つまり、例えば、2kHzの能率が110dBだったとすると、4kHzの能率は104dBしかなく、
8kHzでは98dB、16kHzでは92dBしかないというように、高域になる程能率が下がるという事なんです。
実はこの測定結果を見た時、今まで疑問に思っていた事が全て氷解したのでした。
このスピーカーを手に入れた時、JBLのサイトからネットワーク回路図を入手したのですが、それを見てちょっと変な事に気付きました。
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このスピーカーのクロスオーバー周波数はカタログ上では1、600Hzになっていますので、一般的にはウーファー側の動作点は800Hz位、ドライバー側のそれは3,200Hz位になる様な素子を選択するのでしょうが、このスピーカーでは、全くかけ離れた値のコイルとコンデンサーを使用しています。
但し、ウーファーに直列に入っているコイル (L1 2.3mH) に関しては、再生周波数の上昇に比例して実際のインピーダンスの上昇が大きめですので、この位の値でちょうど良い位の周波数から動作するのだろうと推察する事は出来ました。 |
という訳で、初めに感じた疑問点はドライバー(2412H−1)側の回路図にありました。
まず1点目。 普通ホーンドライバーという物はとても能率の良い物で、コーン型のウーファーより10〜20dBは音圧が高いのが当たり前なのです。 その為、ドライバーの音量をウーファーと合わせるようアッテネーターと呼ばれる物を入れ音量を下げるのですが、この回路図にはそのアッテネーター回路がありません。
因みに
SK3の部分にはランプ回路と呼ばれる物が挿入されていて、もし過大電流が流れた場合、ランプのフィラメントが焼損する事により並行する16Ωの抵抗側に電流が迂回し、その結果、ドライバーに流れる電流値を下げる事によりドライバーのコイルの焼損を防ぐという働きをします。
この直列に入る抵抗がまさしくアッテネーターなのです(実際はインピーダンスを合わせる為、並列にも入れる)が、この回路には平常時に音量を下げる役目をする部分はありません。
そしてもう1点は、ドライバーに直列に入るコンデンサー(
C2 2.2μF)の値が小さすぎる事。
このドライバーのDCR(直流抵抗値)は3.6Ωです。 再生帯域の実際のインピーダンスはそれよりも高く4〜6Ωとしても、動作点3kHzに選んだ場合でも、
8〜11μFのコンデンサーを使用しなければならないはずですし、動作点がそれ以下ならばこの値はもっと大きくなるはずです。
この2.2μFとDCRから割り出すと、動作点は何と20,000Hzという事になりますが、初めてみた時には意味不明で、何かしらこの回路には秘密があるのだろうなと漠然と考えていました。
ですので、このドライバーの周波数特性を測定し、右肩下がりのグラフを見た時全ての意味が分かったのでした。
その後、マルチアンプシステムを導入したのですが、やはりドライバーの特性をフラットにする為にはコンデンサーを入れる事は不可欠で、ツィーターを低い位置から使いたかったのと、上の様に5.5μFのコンデンサーを入れると、少し耳障りな刺々しい音が出る事があるので、7〜8kHzに少し山があるかもしれないと思い、5,700Hzあたりから下でフラットになる様に、8μFのコンデンサーを使用した上で、ツィーターとのクロスを7kHz位にしていました。
以上で、中高音部の処理は終わりですが、このスピーカーのもう1つの欠点である低音の欠如に対して行った処理を記述します。
元々、このスピーカーはPA用という事で、明瞭な音を遠くに飛ばす為中高音部のエネルギーの方が低音部より大きい感じなのですが、実際に測定したところ、150Hz位からだら下がりで、80Hz より下は殆んど出ていませんでした。
推奨アンプパワーとしましては、250〜500Wと記載されていますから、相当なパワーを入れてやればもう少し力強い低音が出てくるのでしょうが、家庭で使う分には完全な低音不足ということになります。
これに関しましても、色々なサイトで色々な試みがなされていましたね。
まずは前面バッフルに開けられている三角形の二つの穴を塞ぐ試み。
これはバスレフダクトと呼べるような物ではなく、ただの背圧抜きの穴でしかなくここからウーファーからキャビネット内に放出された中高音が溢れ出し、音の品位を落としています。
でっ、この穴を塞いだ場合、他にバスレフダクトを設置しないとならないのですが、ある人は底に付いているスタンド設置用のアダプターの先を切り、非常に低い周波数を再生する事に成功していましたが、これだとちょっと量感不足は否めないかもしれないですね。
又、ある人は左右に付いている持ち運び用の取っ手の片側を取り外していたり、更には、そこに自作のバスレフダクトを付けている方もいらっしゃいました。
私の行った方法もこれに近いのですが、わざわざ内側にダクトを作らず、穴の外側に作りました。
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こうする事で、穴の面積を調節する事も、ダクトの長さを調整する事も簡単に出来ます。更にはキャビネット内部の容積にも変化を与える事がありません。
尚、この外付けダクトは内側の取っ手を取り外し、そこに取り付けました。
外側は音響補正ボックスから流れてくる音波の通り道ですので、干渉しないよう突起物はご法度です。 |
このダクト設置後、量感のアップは一目瞭然。 測定したところ、80Hzで約3dBの音圧アップという結果になりました。
但し、地を這う様なベースの唸り音や、腹に響く様なバスドラの音等はとても期待できませんから、最終的にはサブウーファーを追加する必要に迫られると思います
2015年7月2日・記