麻瀬憧庵                                 

水晶さざれ石


 先日、音響補正ボックスの検証報告をして頂いた大工さんから、新しいアイテムのご紹介がありました。
それが水晶さざれ石を厚手の両面テープで、不要振動している部分に貼るという物でした。
Amazon で500円位で手に入るという事でしたので早速購入してしまいました。
水晶はそれ自体が発振する物体だそうですので、その事が関係しているのかと思ったのですが、その後のメールで、別に水晶でなくても、タイルでも何でも良いという事が判明しました。
 そこで思い出したのが十数年前に試してみたレゾナンスチップでした。

直径1cm程の薄いアルミの円板を厚手の両面テープで張り付けるという物で、振動している対象物にそれを張り付けると、振動が両面テープを経由してそのチップに到達する間に振動の位相が逆になり、そのチップが振動する事により対象物の振動を打ち消す力が働くという様な原理だったと思いますが、購入するのもアホくさいので、1円玉で試してみました。

当時はシステムも部屋の環境も全く不完全な物でしたので、それほど顕著な音質改善には至らなかったのですが、部屋の入り口ドアと壁に貼ったところ、低音部のみならず全域にわたりすっきりし、音のタイト感が出て来ました。

その後10mmΦのアルミ棒を買い、これを2,3mm厚に切って色々な部分に貼り、音の改善具合を見てみたのですが、一番顕著だったのが、スピーカーコーン紙の一番外周部分、つまりエッジのほんの少し内側に貼った時でした。

そんな事を思い出したので、今回も早速試してみました。
 初め左chのウーファーコーン紙の12時、3時、6時、9時の位置4ヶ所に貼って左右の音の違いを聴いてみました。

結果、今までボーカルのフォルテの部分で出ていて、これまでどうしても取れなかった、いやらしいざらついた音がかなり消えました。
音の輪郭も鋭さを増し、空間に現出する様もずっとリアルになりました。
 38cmウーファーの場合、800Hz位より上の音は、コーン紙の分割振動によりフラットな周波数特性を得ることはできず、かなり凸凹な特性になってしまいます。
更に、ボイスコイルの動きに正確に追随する事が出来ず、過度特性も悪化します。

この様なことから逃れる為、なるべく低い位置で中音用ドライバーと繋ぐことが必要になるのですが、私の使っているドライバーの周波数特性はおよそ1,800Hz以下は使えないという物ですので、クロスオーバー周波数は2kHz近辺に取らざるを得ず、このウーファーの分割振動から来る悪影響から逃れられずにいたのですが、今回の処置を施した事により、相当な改善を見る事が出来ました。
その後、画像の用に8ヶ所に増やしています。

次にドライバーホーンの上下左右のスロープの中間部あたりと、ツィーターの上面に貼ってみたところ、更に中高音部の音質が改善されました。
音の輪郭部分の余計な付帯音が取り除かれ、クリアーになり、かつ密度が増し、空間に浮かびあがる様が顕著になりました。

驚いたのは、中高音部のみならず低音部への影響が大きく表れた事です。 こちらも音の輪郭がはっきりして来て、バスドラ、ベース、ピアノの低音部の分離が数段良くなり、音場感もアップしました。
その後、壁と天井の空洞部分に貼ってみましたが、スピーカー部分ではっきり表れた様な効果はあまり感じられませんでした。

しかし後日家人から 『最近音量下げて聴いてるの?』 と聞かれました。
 
 何でも、2階での聴こえ方がだいぶ大人しくなったとの事でした。 
今まで低音部でビビっていた食器戸棚のガラス戸があまりならなくなったようで、音量が全体的に下がり、音自体も優しく聴こえる様になったそうです。

予期せぬ様な効果が表れているようで、躊躇せず飛び付いて大正解でした。


ここで一つ注意して頂きたい事があります。

オーディオにおいて、この様に何かしらの事を行いますと、ほぼ必ず音が変化します。
変化しないと思われる場合の程んど全ては、部屋の音響環境やお使いのシステムが、微小な変化を表現できないレベルの物であるか、聴いている人間の脳がまだ十分に鍛えられていないかのどちらかだと言えるでしょう。

ここで大変重要な事は、もし変化を聴き分けたとしても、その変化が良い物なのか悪い物なのかの判断を下せる確固たる基準を持っていなければならないという事です。

一聴して音が変わった事を認識し、良くなったと思い聴き続けると、そのうち「何か前の方が良かったかも」と思わされる事は多々ありますが、その時に正しい状態に戻せるか否かは、やはり脳の中にストックした自分の理想の音のイメージがハッキリ形作られているかどうかなのです。

この理想の音のイメージと言う物は、初めから備わっている物ではありません。
色々な音楽、色々な音を聴いているうちに、こんな音が好き、こんな音は嫌いという所から始まって、より細かいディティールの好みを自分自身が認識するまでには大変長い時間が掛かります。
それもただ聴き流しているだけでは脳の成長はありません。 相当な集中力を保ちながら真摯に音に向き合わなければなりません。

何かアクションを起こして音が変化した場合、その変化の理由は大雑把に言って二つの事のどちらかに分類できるでしょう。
ひとつはノイズ類の低減。 この場合は何も問題なく、出てきた音の変化は良い方へ向かったと判断しても良いでしょう。
ふたつ目は周波数特性の変化による物。 この場合の判断は非常に難しくなりますが、周波数特性をもう一度アジャストする作業を行ったうえで比較する作業をしないと正しい判断は下せません。

そして、今回私が行った様な事の場合、音の変化には複合的な要因を含んでいると思われます。

ひとつはコーン紙の周辺部分の分割振動を低減した事による歪の減少。これはこのままプラス要因として働きます。
しかし、この場合ウーファーの高域部分の周波数特性も変化した事が考えられますので、トータルでの周波数特性も確実に変化してしまっています。
従いまして、このままの状態で音の優劣を比較する事には問題があります。

実際、その後クロスオーバー周波数を少しだけ上側に移動させ、かつドライバーの音量調整を行ったうえで音の改善具合を確認しました。

この様に何かを変化させた場合 (アンプやスピーカーを変えたなどはその最たるものですが)、必ずスピーカーの周波数特性を最良の状態に調整するという作業が必要です。
これを行わない限り、その変化の真の価値を見出すことはできません。

いえいえ、何もやらなくとも日々その周波数特性は変化しています。
気温の変化によるインピーダンスの変化から来る周波数特性の変化はその最たるものです。
何よりも大切なのは周波数特性。
何かしらの事を行った場合や、音のずれを感じた場合は、必ず周波数特性のセッティングをやり直さなければなりません。

この周波数特性をアジャストする方法として、『Eインピーダンスが全てを決める』でスピーカーケーブルの長さを変えるという事を書きましたが、この方法の問題点も色々あり、結局はマルチアンプシステムに到達せざるを得ないという結論に達しました。

マルチアンプはお金が掛かるという事がネックだったのですが、今ではオーディオの世界にも価格破壊の波は押し寄せており、旧来のオーディオブランド以外の製品で、劇的に安くて良い物が手に入る世の中になっていますのでハードルはかなり下がっています。 (『◎やっぱり最後はこれかしら』に詳述。)

結局、オーディオと言う物は行きつく所のない趣味なのですね。
音が良くなるに従い自分の脳も成長を続け、理想の音も更なる高みに現れます。

だからと言ってより高額な機材を求める必要はなく、今持っている機材の余力を存分に発揮させてやれるような環境を整えてやれば良いのです。
目の前にある機材の能力を100パーセント使い切っている等と言う方はまず存在しないでしょうから。

                                                       2014年10月5日・記

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