麻瀬憧庵                                 

ドライバー交換 JBL2482へ


 チャンネル・デバイダーをデジタル方式に変更したので、スピーカーセッティングの能率が非常に上がりました。
特に今までいくら時間を費やしても解決しなかったドライバーとツィーター間の特性をようやくまとめる事が出来るようになり、結果、今まで感じていた高域における違和感の様な物がほとんどなくなりました。

スタジオ内やホールでの反響音もより聞こえるようになり、残響時間も延びたようで消え行く音が自然です。
 左のように各ユニットごとにイコライジングを施す事により、それらのユニットの周波数特性的欠点をある程度補う事が出来、よりフラットな特性に近付ける事が出来ます。

又、急峻な遮断特性により隣のユニットへの干渉が小さくなり、位相による変化も影響を受ける範囲が極狭い領域に留まります。
もちろん、ディレイ機能を駆使する事により、位相差による影響を更に低減する事が出来ます。

この様にどんどん特性を追い込んで行くに従い、当然出てくる音はグレードアップしてくるのですが、それに伴い、こちらの音を聴き分ける能力もアップし、もっともっと高みを目指したくなってしまいます。
昨日よりは良くなった。でも明日になれば又小さな不満が生じ、それを解消したいという欲求が生じます。

特に、周波数特性がこの様にはっきり目で見える状態が出現してしまうと、次に何をやればよいのかと常に考えてしまいます。
 うちのシステムで昔からずーと続く問題点として、ボーカリストが声を張り上げた時に、音が割れる、ビビる、歪むというのがあります。 もちろん殆んどの音源では全く問題ないのですが、ある一部の音源においてこの症状が出てしまいます。 当然録音の善し悪しや、モニタースピーカーの周波数特性とうちのスピーカーの周波数特性の違いや、プロデューサーやエンジニアの好みとの差等こちらでは解決できない問題の結果であると言う事も出来るでしょう。

そもそも私の好みが、目の前にあたかも演奏者が存在しているかのような気持ちにさせてくれる、抜けが良く締まったシャープな明るい音ですので、セッティングもその様に音が破綻してしまう限界ぎりぎりを追及してしまうことで、そこを越えてしまう音源が出現してしまうのでしょう。

しかしここに来て、セッティングに際し周波数特性を測定しデジタル・チャンネルデバイダーである程度ユニットの特性を弄る事が出来る様になったおかげで、この問題を解決できる可能性を感じられるようになりました。

昔、この様な問題が起きるのは周波数の高い部分に原因があるのだろうと思っていたのですが、ここまでいろいろ経験してきて、どうもそうではない、それほど高くは無い周波数帯域の特性に原因があるのであろうと思えるようになって来て、1k〜2kHzの帯域に特段の注意を払うようになっていました。

ところが最近、それはもっと低い周波数帯域なのではないかと思えるようになり、400Hzあたりから2kHz位の特性をもっと良くしなければいけないのではないかと思い始めました。

今使っているチャンネル・デバイダーは、分割帯域ごとにバンドパスイコライザーは1ヶ所しか使えないので、今のセットではこれ以上特性を良くする事は出来ません。   という事で、器材の入れ替えに踏み出しました。

今まで30cm以上のスピーカーを使ってきて、5,6,7,800Hz位の山は張り出しのある音を得るためには不可欠な要素なのではないかと思っていたのですが、もしかしたらこのピークこそが音を暴れさせている原因であり、音の品位を落としている大きな要素ではないかと考えるようになりました。
ということは、800Hz位までしかカバーできない1インチ口径のドライバーではだめで、500Hz位まで受け持たせる事が出来る2インチ口径のドライバーに変更しないといけないのではないかと考え、早速ヤフオクで探し始めました。

第一候補はやはりJBLの375というドライバーでした。 これは昔から評判の良いもので、四十数年前、なけなしの金をはたいてLE85というドライバーを買った時ペアで二十万円でしたが、375はちょうど倍の四十万円でした。

昔から、JBLのファンにとっては憧れと言える存在でしたが今でも人気が高く、オークションでも程度の良い物は十五万円超になってしまいます。

70年代に入りJBLはプロフェッショナルシリーズという名で差別化を計り、次第にこちら一本に統合されて行きました。 この時375は2440という型番で売り出され、今でもこちらはオークションに多数出品され、落札価格は375よりかなり安めです。

ヤフオクでこれらを探し回っている時、ちょっと変わった型番のドライバーを発見しました。 JBL2482です。
375のダイアフラム(振動板)はアルミ製なのですが、当時、このダイアフラムにフェノール樹脂をリネンに含浸させて作られたフェノリックダイアフラムと呼ばれる物を使用した製品があり、それのプロシリーズとして売り出された物がこの2482でした。

ここである事を思い出しました。 
昔このホームページをお読みになった方からメールを頂き何回かやり取りをしたのですが、その中で、その方が日本で一番大きなオーディオクラブの会長さんの自宅を訪問した時の事が書かれていて、この375とフェノリックダイアフラムの375を比較試聴させてもらい、全然違う音がしたので驚いたと言う事が書かれていました。 その時は、ふ〜んそんな物があるんだと思っただけで別に気にも留めず忘れてしまっていました。

という訳で俄然この製品に興味がわき、結局これを落札しました。


















 
 10
1)
でかいです。 直径178mm、奥行き136mm  
重いです。 重量11,3kg

年代物ですからかなり汚れています。

2)
これ、右の方、バックチャンバー部の色が違う物が付いているんですよね。
で、入札する時ちょっと心配したんです。 もしかしたらこちらの方はマグネット部は違う物(2440又は2441)が付いてやしないか? っと。
つまり、フェノリックダイアフラムではない製品なのではないかと。

当然出品者に確かめる事も出来たのですがやめときました。

他の入札準備している人達にそこらへんの情報を与えるのは得策ではないなと判断したからです。

やはり同じような思いを持っていたのでしょう、あるいはただ単純に色違いに不満を感じてかもしれませんが、かなりお安く、相場(2440の)の半額くらいで手に入れる事が出来ました。

この出品者のオーディオ専門リサイクルショップは比較的近い所にありましたので直接取りに行き、目の前で開けてもらいダイアフラムを確認した時は思わずほくそ笑んでしまいました。

その時色の違いの意味を聴いたのですが、左の方はサンスイが代理店をしていた時の物で、黒い物はヒビノに替わった時の物だという事でした。

確かに右の黒いバックチャンバー内側に貼られているウレタンの痛みはそれほどでもなかったのですが、左側のウレタンはぼろぼろで、ダイアフラムのエッジ部に小さなカスが一杯貯まっていました。

持ち帰ってすぐに単体で音出しした時に、こちら側の音が歪んでいてギョッとしたのですが、分解清掃した後ではそのような歪は無くなりホッとしました。

3)
これがフェノリックダイアフラムです。
さすが2インチ口径ドライバーです。 ダイアフラムも直径が10cmもあり、かなり迫力がありますね。

4)
ダイアフラムを取り外すとフェイズプラグと呼ばれる部品が出てきます。
このスリットが周波数特性を決める重要な部分だという事で、375はランシングが無くなってから作られた製品なのですが、このスリット部の計算式のメモが残されていたという事です。
ボイスコイルが入る磁気回路のスリット内部も清掃しておきました。

5)
前述のようにバックチャンバー部のウレタンはひどい状態でしたので、手持ちのフェルト生地を切り抜き張付けました。

6)
ホーンに取り付けたところ。  かなりな迫力です。

7)
組み込み。 実は、ドライバーと平行して2インチ口径のホーンも探していて、ホーンを先に手に入れたのでエンクロージャーの改造を終えていました。

 こちらに改造記を載せてあります。

8)
内部の前後を繋ぐ補強用角材の上にちょうど乗るように収まりました。

9)
組み込み完了
想定通りうまく収まってくれてよかったぁ〜


10)
1インチ口径ドライバーホーンをエンクロージャーの上に置き、ハイルドライバーは2382Aホーンの開口部にぶら下げる事にしました。


 早速、この2482の素の周波数特性を測定し、クロスオーバー周波数を決め、システム全体の周波数特性を測定してみる事にしました。
高域がかなり特徴的な特性ですね。
4,500Hz位からストンと20dBも低下して、そのまま上まで続いています。

高域の再生帯域が狭すぎますから、今ではこのダイアフラムを使った物が売られていない訳が分かりますね。

2.7kHz当たりのピークが気になりますから、これを少し抑えられる位のクロスオーバー周波数を選んでみました。(上から2枚目の図)

1,2kHz辺りから下の山谷はホーンの特性によるものでしょう。 これを矯正する為には相当全長の長いホーンを用いないといけませんので、この山谷は我慢するしかないですね。

ウーファーは50〜60Hzを持ち上げる様にイコライジングしています。(3枚目の図)

130Aもとりあえずこんな具合にイコライジングしてみました。(4枚目の図)

2426はあまり広帯域を使いたくないなと思いこんな感じに。(5枚目の図)

ハイルドライバーもイコライザーによりフラットな帯域を広げています。

トータルの特性はこのようになりました。
2482の1kHzから600Hzにかけてのなだらかな落ち込みはイコライジングする事によりほぼフラットにしています。
                        目で見た限りではかなり期待できそうな特性になっているようですね。
只一つだけ不安要素として感じられるのが、高調波歪が大きい事。
左の図のように2次のみならず、3次高調波まで信号マイナス40dBレベル。 これって約1%程度の歪率になります。

とっ、一抹の不安を抱えたまま音出ししたところ。 ・ ・ ・  かなりな驚き!

音質が、というより、音の質が(分かって頂けますでしょうか、この微妙なニュアンスの違い)別物、と言いたくなるようなこの感動。
これは周波数特性の向上というより、やはりダイアフラムの素材の違いからくるものなのでしょうか。

簡単に言葉にすれば、音が厚くなった、刺激的な音が影を潜め当たりが丸くなったという物なのですが、もっと何か違う感動に包まれてしまいます。

まるで今までとは違う楽器で演奏しているような、その楽器の音を出している部分の大元の部分が見えるような、具体的に言えば、弦の響いている様子が目に見えるような、ギターの胴が振動しているのを感じられるような、ブラスのホーン部での反響が空気として伝わって来るような。 今までに味わった事のない音による感動。

ピアノ、ギター、ブラス等、アコースティックの音は全て気持ち良い。 音の響き、余韻それに浸るだけで無上の喜びを感じます。 そればかりでなく、エレキギターの音も全然違って聞こえます。 あの独特の歪音、それすら気持ちのよい音として脳が感じてしまいます。 

心配した歪感ですが、確かに小奇麗な音ではないんですよね。 少しザラツキの様な物を感じる部分も確かにあります。
でも、一般的にこの様にSN比が悪い場合、音の輪郭がぼやけ、その周りもモヤモヤ感が付きまとうようになる事が多いのですが、その様な感じは見受けられず、かなり太めでしっかりした輪郭が浮かび上がります。
そして、鈍い光を放つような重めの質感が感じられるような艶まで感じられ、ちょっとなまめかしい独特の音です。

よく、熟成の進んだ赤ワインの味をボディがあるとか表現しますが、それに相通じるような音というイメージです。

音質面の他に特徴を上げるとすると、音が目の前にぽっかりと浮かびます。 そして定位が抜群に良い。

例えば、サックスで下の音階から上の音階に音が移行すると、普通は高域に行くに従い音の抜けが良くなり、こちらに近づいてくるように感じる事が多いです。 その結果、低音を吹いていた時と高音を吹いている時で場所の移動を感じてしまいます。 つまり微妙に後ろへ行ったり前に来たり、そういう動きを感じてしまうのですが、このドライバーから出る音にはそういう前後への位置の変化は感じられず、定位の良さが際立って聞こえるのです。

イヤ〜、良い物を手に入れてしまったぁ〜

興味が湧いた方は是非一度ご自身の耳で確かめてみる事を強くお勧めします。
但し、中々オークションに出る事が無いんですよねぇ〜
                                               2020年4月28日・記

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