麻瀬憧庵                                 

◎やっぱり最後はこれかしら


 ここまで、お金を極力掛けず手持ちの機材を活用しつつ音質を向上させる方法を試した結果を色々書いてきましたが、ノイズを更に減少させ、更に良い周波数特性を得たいと思うと、結局最後はこういう所に到達してしまうんではないでしょうか。
それは、複数アンプによるスピーカーのマルチチャンネル化です。

 昔から、オーディオに嵌った方達はよりノイズの少ない良い音を求めて、アンプをプリ部とパワー部に分けたセパレートアンプに変更し、更に左右チャンネルの干渉によるノイズの発生を抑える為、パワーアンプをモノラル仕様にし、左右のスピーカーを左右別々のアンプで駆動させるというようにグレードアップを図ってきましたが、その行きつくところがこの方式のようです。

 例えばそのスピーカーが3Wayだったら、ウーファー、スコーカー、ツィ−ターをそれぞれ別のアンプで駆動するというもので、左右のスピーカーユニットそれぞれに単独のアンプをあてがうという方式です。
これだとノイズは最小、かつ周波数特性の調整も自在に行える訳です。

 私も昔、独り身で経済的に余裕があった頃にセパレートアンプを導入した経験があるんですが、今ではとてもとてもそんな事は夢のまた夢だと思っていたんですが、ネットで色々な情報を仕入れる事が出来るようになり、その中で安くて良い物、良い方法の存在を知り、その結果、現在はステレオアンプを利用したマルチチャンネルを導入するに至りました。

という事で、今ではスピーカーケーブルを調整する作業から解放された訳ですが、マルチチャンネルにしてもこの音を調整する事は重要かつ難しく、自分の耳だけを頼りにして非常に微妙な作業を繰り返さなければなりません。
この点において、ケーブル長を調整しながら音合わせをしてきた経験がとても役に立っています。

 ただこの方式を導入するにあたってのネックは何と言ってもお金がかかるという事ですよね
オーディオメーカーのモノアンプなどを使った場合、1台数十万円なんぞは当たり前。これがスピーカーユニット分必要で、更に周波数を各スピーカーに最適な帯域に分割する為のチャンネルデバイダーなる物が必要で、これの値段が又、数十万円したりします。
そういう訳で、実際にこの方式を導入している方の大半は、ご自身でアンプを作る事が出来る方ではなかったのでしょうか。

ところが、プロのレコーディングスタジオで使われているメーカー等の物は上の値段の数分の一から十分の一位の価格で購入できたりします。
ピュアオーディオに思い入れのある方は別にして、機材は音に色付けをしない方が良いとお考えの方はこちらの機材を購入する事で、格安でマルチチャンネルを導入する事が出来ます。

以下、器材に関する記述は当時の使用機材についての物であります。
現在のシステムにつきましては こちらに詳しく書いてあります。


でっ、私が揃えた物が右の機器です。
これらは全て、ヤフオクで中古を購入しました。

一番上にあるのが、チャンネルデバイダー(クロスオーバーとも呼ばれるようです)。
BEHRINGERべリンガー)のCX2310 Super X-Proです。
名前は仰々しいんですが、お値段¥3,500でした。
       (2017年8月現在 新品で約¥9,000)

これがとっても評判がいいんですよね〜。
レビュー等を見ても、有名オーディオメーカーのウン十万円の物より良いというコメントが載っている位です。
実際使ってみても音がぼけるとか濁るとかいう事は一切なく、今まで以上にクリアーな音が出現しました。


 これまで帯域を分割する為に、LC素子を用いたデバイディングネットワークを自作し、音の調整に取り組んできましたが、遮断特性を −12dB/oct か、位相のコントロールまで考えると −6dB/oct にしないとなりませんでした。しかしこれだと、お互いの周波数帯域にかぶる部分が大きくなり、音の歪や濁りに繋がっているような状態が取れませんでしたが、この機器の遮断特性は −24dB/oct と急峻で、この事に起因する優位性は初めて試聴した時にはっきり判りました。

又、クロスオーバー周波数や、カットオフ周波数の変更も、一々違う値の素子に替えた上で試聴をするという事で、大変な手間と時間が掛かっていましたが、この方式ですとクロスオーバー周波数の変更も自在に出来、どこで繋ぐと両スピーカーの一番良い部分が出せるのか納得行くまで試す事が出来、音作りに非常に役立つ物でした。

このチャンデバはステレオで使うと2Way、モノラルで使うと3Way、更にサブウーファー用の出力も備えています。
私はモノラルにして、上の1台で左チャンネルのウーファー、ドライバー、ツィーター、そしてサブウーファーと4つの帯域で使用しています。

 その下、2台並んでいるのが米国クラウン社製の D−60 というパワーアンプです。
元々は、米国の録音スタジオ等で使用されていたプロ用機材で、入れ替え等で放出された物のようです。
米国仕様と言う事で、120Vで使うようになっているんですが、日本の100V環境で使っても、全く問題はありません。聴き比べしても音の差は感じられませんでした。 ただ私は、ダウントランス導入により115Vで使用しています。

このアンプ、1967年〜74年にかけて製造されていたもので、この2台は前期(下)、中期(その上)とかなりな年代物です。 前期の物は約50年前の製品と言う事になるかもしれません。

古い製品でもさすがプロ用耐久性が違います。更に2台とも音は殆んど同じで、違いが解らない程。
劣化が考えられる電界コンデンサとボリュームは全て交換し、ノイズ対策を施し、電源ケーブル、プラグは交換してあります。

その下に右チャンネル用のもう1台のチャンネルデバイダー。

そしてその下、青いパネルのアンプは同じくクラウン社製のパワーアンプで型番は CP−660 
このアンプは6チャンネル、つまりステレオアンプが3台入っているもので、その3系統のステレオアンプそれぞれでBTL接続出来るような仕様になっています。
このアンプ1台で片側のウーファー、サブウーファーを駆動しています。

お値段は、それぞれ1〜3万円。合計8万円でお釣りが来る位。
チャンネルデバイダーとアンプをつなぐケーブル類も、部品を安く購入し自作しましたので、チャンデバとアンプ、電源ケーブル、ラインケーブル、交換部品全て込みで10万円位でしょうか。
これって、オーディオメーカー製のアンプでしたら、入門用1台分の金額でしょうねぇ。

 しかし何と言っても古いものですし、ヤフオクで購入する場合保障は一切ありませんから、覚悟を決めてから踏み出さなければなりません。
一番怖いのはアンプのDC漏れ。スピーカーボイスコイルの焼損により一発でお釈迦になります。

という訳で、全く知識がない場合は踏み出しにくいのですが、今はネットという非常に便利なツールがありますので、その気になればいくらでも勉強できますのでハードルはかなり低くなっていると思います。

 このマルチチャンネル方式を導入すると、スピーカーケーブルの長さ合わせによるセッティングから解放され、クロスオーバー周波数の選択とヴォリュームの調整という二つの作業で音合わせをして行く事になるのですが、これがなかなか一筋縄ではいきません。

クロスオーバー周波数を選ぶ場合とても重要な事は、各スピーカーの周波数特性が平坦な場所を選択しないといけないという事です。ダラ下がりや逆にピークが出現している帯域で繋ごうとすると、合成された特性はフラットには成り得ません。
という事で、両方のスピーカーの周波数特性を予め把握する事がとても大切な事になりますが、これらの特性もネットで丹念に探して行くと取得する事が出来ると思います。

このチャンネルデバイダーの様なアナログ方式の物の場合、最適なクロスオーバーを探すのは非常に難しい作業になります。小指の先ほどしかないダイアルを回し最適だと思われる周波数を決定したら、今度は高音用のアンプのヴォリュームを回し、再生される音を確認して行きます。

 『 Eインピーダンスが全てを決める』の中での、スピーカーケーブル長を変える事により周波数特性を調整する方法の記述の中で、「最後、最高のポイントはわずか数mm以内の所にあります。本当にそれだけの差でがらりと音が変わるポイントがあるんです。」と書きましたが、このチャンネルデバイダーを用いた方式においても、その微妙さは全く変わりません。

チャンネルデバイダーのダイアルも、ヴォリュームのダイアルもほんの僅か、もう動いたか動いてないんだか分からないような微妙な変化で音が変わっています。
そのような微妙な作業を繰り返しながら、納得のいく音を探していかなければなりません。

 この時必要になるのが、音の聴き取りやすいモノラル音源。
私はもっぱら Helen Merrill の 『Helen Merrill with Clifford Brown』 の3曲目 「What's New」を使用しています。
テンポ的にも聴きとりやすく、ベース、ボーカル、ピアノ、ドラムス、トランペットと角楽器の音色の変化も聴きとりやすく、又ノイズが非常に多めに入っていますので、高域の左右バランスを取る時にとても分かりやすくなっています。

まずウーファーのみ音出しし、左右の音を全く同じ状態にします。
クロスオーバー周波数のダイアルとヴォリュームを使い、左右同じ音量、同じ音に仕上げないといけません。
このとき頼りになるのは自分の耳のみ。つまみの位置は左右同じでなくとも、同じ音が左右のスピーカーから出る様にしないといけません。

次にはウーファー側を切り高域側のスピーカーだけの音を左右同じ音量にします。
この状態で全ての音を出し、どんな音が出ているか確認します。
もし気に入らないようでしたら、左右どちらかの高域側のヴォリュームを変化させ、良いと思われる音に変えて行きます。
ここで反対側の高域側の音も、良くなったチャンネルと同じ音になる様にヴォリュームを調整し、再度音の比較をします。
この様な事を繰り返し最高の音に調整していきます。

クロスオーバー周波数を色々変えて上の操作を行うと、音の濁りやノイズ感等が最小に感じられる場所が見つかりますので、そこを見つけるまで試行錯誤する事が必要です。

 ここで一つ肝心な事を書いておきます。
ステレオアンプの左右チャンネルで別々のスピーカーユニットを駆動する場合、左チャンネルで左側のウーファーを、右チャンネルで右側のウーファーを駆動すると考えがちなのですが、これですと、左右のアンプの相互干渉が起こり、ノイズ的にあまり良い結果が得られないそうです。
ですので、それぞれのアンプを片側づつに振り分けて、低音用、高音用として両チャンネルを使用した方が良い音が得られるようです。
2017年8月8日・器材変更の為1部改編


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