麻瀬憧庵                                 


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 もう5,6年ほど前になるのですが、友達から、「義理の兄さんが家を建て直してAVルームを作ったので、再生音の状態を判断してもらえないか」 との相談を受け、そこへお邪魔する事になりました。
その時、補正ボックスを作って持って行こうかと思ったのですが、作るのも時間が掛かるし、運ぶにも重いし、設置にも時間が掛かるしで、何か他にもっと簡単で軽量な物はないものかと思案した挙句思いついた物が 『音響補正テトラパック』でした。

       ボール紙で制作した模型

 上の画像は、考え付いた時にボール紙で作った模型です。 制作過程を記録するのを忘れてしまった為、これで代用しています。

材料は3mm厚位のべニア板を使用し、1辺60cmの正三角形を4枚つくり、辺と辺を合わせる様にして三角錐を作ります。
接着や強度を上げる為、補強材として1cm角位の角材を内側に使用しています。 ここら辺、ちょっと工夫が必要です。

       スピーカー後ろのコーナーへの設置図

三角錐の一つの頂点をコーナーに当て、左右対称になるように置けば、それで設置完了です。
コーナーからの放射波が3方向へ分散して、部屋の中心へ向かう音波が減少されます。
天井への設置はちょっと大変で何か工夫しないとなりませんね。 但し、比較的軽く出来上がりましたのでその点は利点ですね。

でっ、これを持ってご自宅を訪れたのですが、部屋を見てびっくり。
普通のちょっと広めのオーディオルームを想像していたのですが、100平米(30坪・60畳)はあろうかという大広間。 ライブハウスかよというくらいの広さで、一角にはグランドピアノが置いてあり、家族の方がここでピアノ教室を開いているとのこと。

オーディオルームなどを施工する専門会社に任せたとのことで、天井は傾斜が付いていて、壁の中ほどは1周取り巻くように上下長1mくらい、厚さ15p位の吸音壁が新たに設けられていました。

スピーカーはB&Wの200万位する縦長の大型タイプ(しかしこの部屋に置くとものすごくちっちゃく感じる)で、アンプも名前は忘れてしまいましたがピュアオーディオファンには有名な高額品で、CDプレイヤーもどっかのショップの特別改造品とやらでうん十万する高級品。

部屋の真ん中より後ろ寄りにソファーが置いてあり、その左の壁沿いにアンプラックが置いてあり、そこから床下を通って左右のコーナー直前に置かれたスピーカー迄ケーブルを引いてありました。

これを見て絶句。 もう手の施しようがありません。 どんな音が出てくるのかこの時点で想像が出来ました。

これはケーブルが目立たないようにと施工会社が提案してきたそうです。 片側優に10m、対角線上のスピーカーは床下どう這わせてあるのか知りませんが15m、下手すると20mあるかもしれません。

この長さをダンピングファクター100程度の民生用アンプで鳴らすのは愚の骨頂、専門業者と言ってもこんなものなんでしょうね。

一様、音の焦点を出すべく5m程のベルデンケーブルやパソコンを持参したのですが、あまりの距離になすすべなし。
作って行ったテトラパックも付加された吸音壁の為、画像のように設置することが出来ず、結局コーナーの前にちょこんと置いただけ。
この時センターで聴いていたご主人は、『あっ、すっきりした』 とおっしゃっていましたがプラシーボでしょうねぇ。


 この音響補正ボックスの簡略化に関しては、その後あるアイデアが沸きいつか試さないととずっと思っていたのですが、今年の6月頃にある方からメールを頂き、そこにちょっと近い事が書かれていました。

この方、だいぶ前に音の焦点に関してご連絡を頂き、ホームページへのリンクの許可などで何回かやり取りをした中で、部屋の音響の改善に取り組むよう勧めた方なのですが。

「音場補正で良いアイデアが出て来ません。
麻瀬憧庵様の音響補正ボックスが予算的に最適かなと思っています。

四角いボックスの代わりに50cmぐらいのボールを天井から吊り下げるアイデアを思いついたのですが、如何でしょうか?
材質・構造等についてアドバイスを頂きたいのですが?」

このボールというのがまさに私が考えていたものでした。
そこで次のようなメールを送りました。

『ボールの使用大正解でしょう。
吊り下げるというよりも、コーナーを隠す様にコーナーに押し込むように止めてしまうのが良いでしょう。

50cmもの大きさでなくても、おそらく20cm位でも同じような効果を発揮すると思います。

もし発泡スチロール製の物があれば、軽量で非常に簡単。
壁2か所と天井の接点部分に両面テープ、あるいはベルクロで止めれば完成です。

是非、実験してみて下さい。』

と返信したところ、三日後に実験結果が送られてきました。

「感想
音像が上から目の前に降りて来て、自分の周りで音が漂うようになった、音像の位置が明瞭になった、ピアノの強打で歪まなくなった、直接音が間接音(残響)にふんわりと包まれてギスギスした感じが無くなった、ピアノ演奏で一部分全く別の演奏のように聴こえるようになった。
今までと全く別次元の変化ですが機器関係の改良のレベルというと3レベル位の激変です。
取り敢えずは残りの天井のコーナーに4箇所ほど設置しようと思っています。
有益なアドバイス有り難う御座いました。」

う〜ん、これって補正ボックス使用時の音変化そのままじゃないですか。
最初に閃いた時に恐らく効果を発揮するだろうとは思っていたのですが、ここまで同じような変化を感じられるものなのか。

実は、これ読んだ時、これちょっとヤバイぞっと思いました。
こんなに簡単に時間も労力も費用もかからずに部屋の音響特性を改善出来るとすると、このホームページを読んで、苦労して音響補正ボックスを製作し実験してくれた何人もの人達に申し訳ないな、ちょっと顔向けできないなと。

と言う訳で、その時はこのやり取りの事を発表するのをためらっていたのですが、しかし、いつか実験してほんとの事を確認しなければいけないなとず〜と思っていました。

そんな時、ちょっと前の事なんですが、某100円ショップで発泡スチロールで出来た直径10cmのボールを発見。
これで実験できるんじゃないの、っと早速4個だけ購入してきました。

    

天井と横の壁に接する部分に両面テープを張り準備完了。 後はコーナーに押し込むように張り付けるだけです。

        

果たしてどの位の効果が表れるのか早速実験開始。

まずはすべての補正ボックスを取り外した状態で試聴。 
一聴して感じるのは音がでかくなったという事。そして粗さも感じます。 特に高域で割れたり弾けたりする音が耳に付きます。 これは初めて音響補正ボックスを設置した時に現れた音の変化とちょうど逆パターンで、補正ボックスの効果が失われた為に現れた音の変化という事ですね。 但し、『遮音壁の制作記 その2』にも書いたんですが、前面壁と天井半分を吸音壁にしたせいで、凄く音響特性の良い部屋になっており、この状態でも結構音場感のある音になっていて音源に封じ込められた反響音もよく聞こえます。

次に前面の天井と床(スピーカー裏)のコーナーにボールを設置して試聴。
音量が下がりました。 音の粗さが消え、割れや弾けもかなり減り塊感も出てきました。 やはり、コーナーからの放射波を遮断する効果は十分あるのだと思います。

この状態で、更に補正ボックスを設置して試聴。
これは上の状態から全く変化がありません。更に良くなるかと思ったのですが全くの期待外れでした。

最後に音響補正ボックスだけで試聴。
あー、やっぱりこれが一番良いですね。 更にまろやかになり、割れや弾けも最小で一番品の良い音になります。
某サイトで言うところの『結界を張る』という状態、つまりコーナーからの放射波が壁伝いに部屋を回るような状況が作り出されリスニングポイントに向かう音波が減る為、スピーカーから出る音がそのまま耳に届きやすくなるという事なのでしょう。 音源に入っている反響音もこれが一番よく聞こえます。

ボールの場合、コーナーからの放射波を一旦遮断することはできるのですが、分散された音波がボールの前面に回り込んで来てしまい、補正ボックスに比べリスニングポイントに到達する音波が多くなっているのではないでしょうか。 その差が試聴結果に表れていると思います。

試聴の結果、補正ボックスの方が好結果でしたので一安心。 今まで通り、補正ボックス一押しで行けるようです。
但し、ボールもそれなりの効果は発揮してくれますので、まずは実験してみて頂きたいですね。 前後の天井と床のコーナー用に8個、わずか880円(税込み)の投資で音場の出現を味わえるかもしれません。 もし何も変わらなっかったとしたら、脳のバージョンがまだ低いのかもしれません。
眼鏡をはずし、目を見開いて音を見て下さい(この音を見るという意識が大事)、続けるうちに脳のバージョンアップが果たされます。

                                                                     2021年12月15日・記

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