デジタル・チャンネルデバイダーの導入
日々、良い音を求めて測定試聴を繰り返し、ありとあらゆる事を試しながら毎日を過ごしてきたのですが、どうしても解決できない壁にぶち当たり進化が止まってしまいました。
一つは位相の問題。
これは高域に行くほど顕著になってくる問題で、特に2426ドライバーとツィーターとの繋がり部分に大きな影響を及ぼしてしまいます。
|
左のグラフはクロスオーバー周波数や、アンプのボリュームなどはすべて同条件なのですが、キャビネットの上においてあるツィーターの位置が前後5mm違いの場合の特性の違いを表しています。
どうしても8k〜15kHz間に凸凹が出来てしまい、位相を合わせる為に前後の位置を色々動かしてみたのですが、この凸凹は無くなりません。
それこそ面一から奥12、3cm位までやってみたのですが駄目でした。
位相差による影響を受けるのは、もっぱら高域側のユニットの様で、ツィーター(ハイルドライバー)の特性に乱れが生じます。
下にドライバーとツィーターのユニット単体の特性グラフを載せましたので、この事が良くおわかりになるかと思います。
位相を合わせる為には、恐らく1mm、2mmの違いにも気を配らなければいけないのだと思います。 |
もう1つは各ユニットに存在する周波数特性上の問題点
ユニット間のクロスオーバー周波数は、各ユニットの周波数特性により、自ずと設定できる範囲が決まって来てしまい、必ずしもユニットの持つ良い部分だけを選んで使える訳ではないという事です。
上のグラフで言えば、ミッドバスの600〜1,100Hz位の山や、800〜900Hzのへこみ。 2426の2,500Hz当たりのへこみ等はどうしても残ってしまいます。
これらの諸問題を解決する切り札として考えられるのが、
デジタル・チャンネルデバイダーでしょう。
アナログ方式の場合、クロスオーバー周波数を変えると前後のユニットの周波数が同時に変化していきますが、デジタル方式では別々に変化させる事が出来る上、遮断特性もユニットの周波数特性に合わせ別々に自在に変える事が出来ます。
又、イコライザー機能も備えている物を選べば、ユニットごとに凸凹を修正する事も出来ますし、ディレイ機能があれば位相も極限まで合わせる事が出来るでしょう。
という訳で、デジタル・チャンネルデバイダーの導入は早いうちから考えていました。
ところが一つだけ大きな問題がありました。
それは、うちでは
KORGのDSDーDACを使っているという事です。
このDSD方式の音の良さは、量子化ノイズをはじめとしたあらゆるノイズを可聴帯域外に送ってくれる事によりノイズの極端に少ない音が再生されるという事なのですが、チャンネルデバイダーは、このDACから出てきた音を各帯域に分割して各スピーカーを駆動するアンプに信号を送るという物なので、今まで使ってきたアナログ方式ではほとんど問題は感じなかったのですが、デジタル方式にした場合ちょっと問題があるのではと考えました。
それは、せっかくDSDーDACでノイズの少ないアナログ信号になっている物をもう一度デジタルに変換し、再度アナログに変換するのですから、そこで又量子化ノイズ等が付帯してしまい音が濁るのではないかという事です。
これは本当に悩みました。 今現在の見晴らしの良い抜けた空気感が濁った重いものになったら絶対買った事を後悔するなと1年以上買うのを躊躇していました。
ところが、去年(2019年)の夏、音楽を聴いている最中に、雷が落ちた様なものすごい音と共に一瞬にして右チャンネルの音が出なくなり、いったい何があったんだと調べてみたらチャンネルデバイダーの電源が入らず壊れているのが分かりました。
一瞬ショックでしたが、これは良い機会だと思い、早速前から目星をつけていたベリンガー社製の 『ULTRADRIVE PRO DCX2496』 を注文しました。 |
|
一台届き試聴したところ、心配したノイズの問題は全く気にならず、これならいけると即もう一台購入しました。
これは6チャンネルですので、4ウェイマルチ(当時)の当方は片チャンネルごとに一台づつ必要ですので。
これはものすごく良いですねぇ。 クロスオーバー周波数周辺の周波数を遮断特性と遮断方式でかなり自在に変化させる事が出来ます。 それも各ユニットごとに変えられますから自由度が大きいです。
特にー48dB/oct という遮断特性を選んだ場合、もう鉈でスパッと切り取った位の特性になりますから、隣のユニットへの干渉がほとんど無くなり、それに伴い音の濁りも無くなりとても澄んだ音になる感じです。
こういう音の変化を味わってしまうと、パッシブネットワークで分割されている普通のスピーカーシステムの音はどれほど濁っている物なのか考えさせられてしまいますし、マルチアンプ方式の圧倒的な優位さを再認識させられます。
又、周波数やゲインなど全ての数値はデジタル表示されていますので、アナログ方式の小さいダイアルで変化させる物とは全く比較にならない位精度が高いです。
ディレイも距離にして2mm毎に変えられますので、位相も相当緻密に合わせられます。
イヤ〜、こんな良いものなら、もっと早くに使い始めておけばよかったぁ〜
2020年4月27日・記
これを導入するにあたりネットで使い方を色々調べたのですが、その時仕入れた情報と使ってみて分かった事についていくつか書いてみます。
1.入力ゲインについて
この手のデジタル機器の場合、信号のやり取りは+22dBuという大きい物で、これが規定入力になっているそうです。
従って、例えばCDプレーヤーからデジタル信号のまま入力して使用する場合は、入力ゲインを0dB近辺で自由に選べるのですが、XLR端子を使用してアナログ入力で使用する場合は、アナログの規格が+4dBuですので、このままでは入力ゲインが足りずビット落ちという情報の欠落が生じる恐れがあります。
従いまして、入力ゲインは±15dBの範囲で自由に選べるようになっていますので、アナログ入力(例えばうちのようにDACからこれに繋ぐ場合)使用の場合は、最大の+15dBに設定する必要があります。(画像1)
2.出力ゲインについて
これも出来るだけ大きく設定した方が良いのですが、画像3の出力レベルメーターのLEDの点灯状態を見ながら、楽曲の最大音量時にCLIPの赤いLEDが点灯しない様な出力ゲインを選ばなければいけません。
特に中音部のバンドは音響エネルギーが一番多いのでクリップしやすいので注意が必要です。 デジタル信号の場合、クリップ時の歪はとても酷い物で、ここには絶対入らない様にしなければいけません。
うちの場合ですと、3kHz以上のバンドは10dB位にしても全然問題ないのですが、それ以下のバンドは1,5〜4,0dBで一杯です。その状態でパワーアンプのボリュームを絞る事により音量を調節しています。(画像2)
3.クロスオーバー周波数について
これはもうホントに自在に変化させる事が出来ますね。
肩特性とオクターブあたりの減衰率を的確に選ぶ事により、フラットな特性を目指す事が出来ます。
又、帯域毎、それぞれ異なる周波数を選ぶ事が出来ますので更に便利です。
4.ディレイについて
これを購入した一番の目的がこの機能でした。
高域側に行けば行くほど位相の問題が顕著に現れ、これを解決するのにはデジチャンのこの機能しかありません。
リスニングポイントから一番遠いスピーカーを基準にし、近いスピーカーの出音を少し遅らせるようにして(後ろに下げて位置を合わせる事と同じ働き)位相を同じにしていきます。
LONGは5cm単位、SHORTは2mm単位で調整できます。 |
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7) |
5.イコライザー機能について
入力端子と、分割される六つのバンドそれぞれに、ローパス、バンドパス、ハイパスという三つのイコライザー機能が搭載されています。
これにより、マルチチャンネルの分割度を高めれば周波数特性をよりフラットに近付ける事が出来ます。
但し、6バンド×3EQで最大18地点のイコライジングが出来るかと言うとそういう訳ではないようです。
イコライジングの為の容量の様な物があるようで、画像6にある、nr:1の隣のfreeの値が、0%になると、画像7の様な警告画面が出てしまいこれ以上セットできなくなります。
時により、画像の様に1%残っている状態でも警告画面が出てしまう場合があります。
実際に使用した結果では、8か9位の地点しか設定できませんでした。 この点はだいぶ物足りない感があります。
この機能を使用して周波数特性の凹みを持ち上げる場合、その部分のスピーカー本来の高調波歪率より歪成分もアップする訳ですので、あまり持ち上げ過ぎるとSN比の悪化につながります。
逆にピークを抑えるようにした場合、スピーカーの能率ダウンにつながる事があり、その分アンプのボリュームをアップしなければいけませんが、アンプのSN比が悪い場合には、ボリュームアップにより残留ノイズが耳につく事になりかねません。
この様に改善とバーターで悪化する事もありますので、これらの事に注意しなければいけません
この製品にはもっと色々な機能があり、プロ用としてライブハウス等のPA器材を自在にコントロールする事も出来る様ですが、家庭でのオーディオ用としては上記の様な機能だけで十分な音作りが出来ると思います。
但し、これを使う上で重要な事は、スピーカーの周波数特性を正確に測る事が出来る環境を構築する事であり、その微妙な変化を目で確認出来るようにしなくてはなりません。 これなくして正しく設定する事はできないでしょう。
2020年11月17日・記