麻瀬憧庵                                 

貧乏人的音質改善術 @スピーカーキャビネットの振動抑制策


 一般的に、オーディオという趣味は大変お金が掛かる物だと思われています。
売られている機材の値段を見てみますと、数千円から一千万円超と信じられない位の幅がありますが、オーディオ・マニアとしては当然高い物の方が高音質だと思ってしまい、いつかは高級品をと思いながら、現在の音に不満を感じつつ音楽を聴いているというのが実情だと思います。

数万円のセットから数十万円の物に、更に百万円超の物にとグレードアップを繰り返しながら、それでも理想の音に巡り合えず、悶々としながら音楽を聴いている人も多いのではないでしょうか。

もちろん、一番大事な事は自己満足を得るという事ですから、高級ブランド品をもつことで喜びを感じられるのならそれはそれで結構な事なのですが、大切な事を知らない為に、今持っている機材の本当の力を引き出せずにいるのなら、これから先、どんなに高級な機材を買い揃えて行っても、最高の満足を得られる瞬間は訪れないでしょう。

このホームページでは、極力お金をかけないで最高の満足を得る音を出現させる方法を書いてきましたが、ここで、書き逃してしまった事、更に最近試みて良い結果が得られた事について書いてみたいと思います。

 良い音を聴くために大切な事は、部屋の音響を整えたうえでスピーカーの周波数特性を調整する事であると書いてきましたが、それでは、はたして周波数特性が素晴らしければ良い音が聴けるのでしょうか。

スピーカーの果たす役割は非常に大きく、この部分で音が決まってしまうと言っても間違いでない位なのですが、スピーカーに求められる本質は、入ってきた電気信号をそのまま忠実に空気振動に替えるという事です。

それでは、この為に重要な事は何なのかについて書いてみます。

 今ここで、足を踏み出す瞬間の事を考えてみます。片足に体重を乗せ、その足の裏で地面を後ろ方向へ蹴りつつ反対の脚を前に出す訳ですが、この動きを成立させる為に一番大切な力は何なのかと言いますと、足の裏と地面との間に生じる摩擦力という事になります。
中学の時に物理の時間に作用と反作用という事を習いましたが、この地面を後ろ側に蹴る(作用)ことにより、地面から同じだけの前に進む力を授かる(反作用)という事なのですね。

地上で行う運動は全て、この地面(地球)に対して力をかける事により、地面から力をもらい受けて成り立っているという事です。
この時大前提としてあるのは、地面(地球)はこちらの力を全て受け止めてくれるという事です。つまり地面(地球)はこちらの蹴る力を受けて後ろへ移動したりしないという事で、拠り所となる物が無いと正しく力を発揮する事は出来ないという事です。。

例えば、初めてスキーを履いた子供を雪の上で歩かせてみると、その場所で左右の足が前へ行ったり後ろへ行ったりするばかりで、全然前に進めません。
地上で歩くのと同じ感覚で、脚を後ろへ出しても、スキーと雪の間には極端に小さな摩擦力しかありませんから、蹴ろうとした足がそのまま後ろへ流れてしまい前に進めないのです。
つまり、正しい力を発揮する為には、拠り所となる不動の物が無くてはならないのです。
 ここでスピーカーから音が出る場合の事を考えてみます。
原理としては、中学の時に習ったフレミングの左手の法則を利用した物で、左図の様にマグネットにより発生する磁場の中に置かれたコイルに電流が流れると、その流れる電流の方向により、決まった方向に力が発生するという物です。
 ここで空気を前方に押し出す方向に電流が流れたとすると、Aの矢印方向にコイルが移動し、それに伴いコーンも前方へ移動し、コーンの前に存在する空気を押しだす。という事で音を生み出しているのです。
 この時、大きさは同じで、方向が全く反対の力(Bの矢印)が磁気回路に生じています。
 もし、その力で磁気回路自体が後ろ方向へ動いてしまったら、Aの力は相殺され、空気を押しだすコーンの動きは小さい物になります。
つまり、Aの力を忠実に再現する為には、拠り所となる磁気回路が不動でなくてはならないのです。
 スピーカーをキャビネットに入れて音を出した場合の事を考えてみますと、ボイスコイルは前方だけでなく後方へも同じように動き、それに伴いキャビネット内の空気も振動させています。
それにより、キャビネットの六面の壁も激しく振動し、更に全面バッフルに取り付けたスピーカーユニットその物も震わせています。
 
 つまり不動でなくてはならない磁気回路が振動している為、再生される音は、入力された電気信号とは別の物に変換されているのです。

 最近よく聞く、『タイムドメイン・スピーカー』は、入力した信号をより完璧に再現する為に、この振動から逃れる方法を模索した結果生まれた物なのですね。
 このキャビネットの振動抑制につきましては昔から重要視されていましたが、そのための対策としてよくとられていたのが、それぞれの壁に角材等をバッテンに張り付けるという物でしたが、はっきり言ってほとんど効果はありません。

 スピーカーからキャビネット内に音波が放射された場合、キャビネットを膨らますような力が働きます。その次の瞬間には縮むような力が生じます。
つまり、まるで呼吸しているかの如き動きを繰り返します。

 それを抑制する為には左図の様に対面の壁を連結してしまうように補強材を入れる事が最も効果的です。
この補強材3に変わる方法として、キャビネットの上に重しを載せてしまうような方法が昔から取られていました。
 これらは自作する場合は簡単に入れられるのですが、既製品に施す場合は、ウーファーユニットを取り外し、その穴から入れなければなりませんので、実際問題として補強材3は難しいでしょうね。

 これで箱の振動はかなり抑える事が出来ますが、ユニットの振動対策としてはまだまだ不十分です。
最初に触れましたように、ボイスコイルが動く度に反作用として磁気回路(すなわちスピーカー本体)を振動させる力が生じますから、スピーカー本体の剛性をもっと引き上げる様な施策が必要になります。
 そこで私が考えたのが左図の様な事です。
スピーカーユニットの後ろに突っ張り棒を入れ、それを目いっぱい突っ張らせる事により、スピーカーユニットの剛性をあげ、振動を抑えるという物です。

こうする事によりシャシーを強力に抑えつけますので、本体の振動抑制効果は非常に大きいと思われます。

 特に上側に設置してあるホーンスピーカーの場合、前から見るとホーンの奥に重たいドライバーが設置してありますので、慣性モーメントは非常に大きく、振動し始めるとその振動が続く傾向が出てしまうのですが、突っ張り棒を使用する事により、その動きを強力にダンプすることができます。








 私が突っ張り棒として利用したのがこれです。
これは建築資材で床下などに入れて補強用に使ったり、床の傾きを調整する為に使います。

これは 『Oスピーカースタンドの実験』 でスピーカーを斜め置きする方法を試した時に利用した物です。その後必要無くなりましたので(『Rスピーカースタンドの欠陥発覚』参照)再利用しました。

木片をかましてあるのは、鉄の部分をなるべくマグネットから離し、磁場に影響を与えないようにと思ったからです。

ウーファーもユニットセンター部に突っ張り棒を入れました。

実は、私が使用しているスピーカーは、値段の割には良い音がすると言われるSRスピーカーと呼ばれている、コンサート等ライブ会場で使う目的で作られた物ですので、持ち運びの為に左右に取っ手が付いています。
それはねじを外せば簡単に取れ、そうすると結構大きな穴が出現しますので、突っ張り棒を設置するのも比較的簡単でした。

普通のスピーカーではこう簡単にいきませんが、何か工夫して、スピーカーユニットその物の剛性アップを果たせる方法を考える事が、振動対策の肝になります。

 私が35年程前に、JBLのLE14Aというウーファーと、ランサー101のレプリカ箱を買ってきて組んだ時にこの事に閃き、LE14Aのシャシーの4ヶ所に穴をあけ、そこに4本の長いボルトを通し、それを後ろのバッフルに貫通させ、ナットを締めあげてユニットと箱の一体化を図り好結果を得られました。
それ以来、この方法は私の常とう手段です。

 ドライバーホーンはプラスティックで出来た安物ですので、振動も音漏れも甚だしい物でしたので、裏から鉛板を張りましたがあまり改善されなかったのですが、突っ張り棒効果は非常に大きく、表からホーンを叩いても、コツコツとくぐもった音がするだけです。

これらの対策の結果は相当な物で、音の輪郭がシャープになり、音の割れも少なくなり、鮮度がアップし奥行き感、音の階層の段差感等もより鮮明になって来たように感じます。
2014年6月20日・記


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