麻瀬憧庵                                 

BTL接続


 もう1年程も前の事なんですが、ヤフオクでクラウン社製のちょっと変わったパワーアンプを見つけました。
型番はCP-660 ちょっと気になったのでサイトからPDFをダウンロードしたところ、お店など向けの商業用パワーアンプの様でした。 CはコマーシャルのC、6チャンネルのパワーアンプで各チャンネル出力は60WでCP-660という事のようです。

つまりステレオアンプ3台がひとつになっているという事で、これ1台でいくつものフロアで違う音楽を流せるという事のようです。
又、家庭用で使用する場合、5.1チャンネルのサラウンドシステムをこれ1台で賄えますね。

ヤフオクでこれが気になったのは、裏の端子の画像を見たところBTL接続が出来る仕様になっている事に気付いたからです。

BTL接続とは,「Balanced Transformer Less」,「Bridged Transformer Less」,「Bridge-Tied Load」等と呼ばれる回路のことで、ブリッジ・モノ接続とも呼ばれます。


 1台のステレオアンプを普通にステレオ接続した場合、左図のような使い方になります。

アンプのLチャンネルの入力は、AMP1で増幅し左側のスピーカーに出力し、Rチャンネルの入力は、AMP2で増幅し右側のスピーカーに出力します。

これに対し、BTL接続では片チャンネルの信号を増幅するのにステレオパワーアンプ1台まるごと使用します。

ステレオパワーアンプのチャンネル1に入った信号は、AMP1でそのまま増幅され、スピーカー用出力端子のプラス側からスピーカーのプラス端子に送られます。

一方、同じ信号をいったん差動AMP を通過させ、位相を反転させた信号をAMP2で増幅し、スピーカー用出力端子のプラス側からスピーカーのマイナス端子に送ります。

この様な回路を組むことにより、理論上は2倍の出力電圧を得る事が出来、出力電力は4倍になるそうです。

但し、その為には強力な電源、精緻な回路を備えていなければならず、実際には2〜3倍程度の出力になるものが多いようです。
 このBTL接続、昔から気になっていたのですが、何しろステレオアンプ1台で1チャンネルしか音を出せない訳ですので、今の4ウェイマルチを組んでる状況では最大8台のステレオアンプが必要になってしまいます。 
という訳で実験するのはず〜っと先だろうと思っていました。

しかしヤフオクで売られているこのアンプを見た時、これ1台でいろんな実験が出来るかもと思いました。
何しろステレオアンプ3台分ですから。

ダウンロードしたPDFでこの機種の特性などを調べたのですが、出力に関しましては、ステレオ接続で1チャンネル60Wが、BTL接続にすると150Wに大幅アップ。約2,5倍に増加するとのことで申し分ないものでした。

又、これは10数年ほど前に売られていた様なのですが、その当時売られていた同じクラウン社製の同じ価格帯のPA用アンプより、基本特性は良さげで、ひずみ率や残留ノイズ、ダンピングファクターなどの数値はこちらの方が上回っていました。

そこで、BTL接続の詳細を色々調べたところ
メリット
 ・ 出力が大幅に増える
 ・ 出力電流による電源の変動が±で逆相に発生することで、それらが完全に打ち消しあい、
   変動が全く無い理想的な電源とみなせる
 ・ 回路のグラウンドに出力の信号電流が流れないことによる、アンプの帰還ラインの混変調歪の低減
 ・ 完全なモノナル仕様となる事によりチャンネルせパレーションの向上が望める。

デメリット
 ・ DF(ダンピングファクター)が1/2になる
 ・ アンプの残留ノイズが倍になる
 ・ 音楽信号の経由する回路規模の増加により音の鮮度が落ちる恐れがある。

というようなものでした。

このデメリットの中のダンピングファクターが半分になるという部分に関しては、このアンプのDFが250とのことでしたので、半分になっても問題はないかなと言う事で、購入を決めました。






届いたアンプがこれです。
この画像の色よりは深いブルーで、中々綺麗な物でした。

1〜6まで、チャンネル毎にクリップとシグナルのインジケーターが付いています。

このうち、1と2,3と4,5と6チャンネルでBTL接続が出来るようになっています。



入力端子は一般的なオーディオ用とは随分違っています。
ユーロブロックと呼ばれているようです。
このブロック毎取り外せるので、設置の際楽ちんです。

ケーブルを差し込んでから上のマイナスねじで締め付けるようになっています。

例えば3,4チャンネルでBTL接続をする場合、3チャンネルの入力端子に図のように接続します。


そして出力端子側は、スピーカー端子のプラス端子(赤)のみを使い、3チャンネルの赤とスピーカーのプラス端子、4チャンネルの赤とスピーカーのマイナス端子を接続します。

この時、ボリュームつまみの間にある切り替えスイッチを、右側のMonoにスライドしておきます。

出力の調整は、3チャンネルのつまみを回して行います。


早速実験に取り掛かりました。

両側のサブウーファーは、ソニーの業務用パワーアンプで鳴らしていたのですが、まずはこの部分にこのアンプをBTL接続で使ってみました。

・ ・ ・ ・ ・ 音出た瞬間、唖然、茫然。

違うにも程があるだろぅ〜!!!

もうホントに、ウォォ〜っと言う感じでした。

前のアンプの場合、サブウーファーの音量を上げていくと、音の大きさに比例して音が無様に膨れ上がる感じで、ボヤボヤ、モヤモヤとした不快な音に変貌していくような感じでしたので、なんとかそのバランスがとれる範囲内での調整しかできなかったのですが、こちらはパワーを上げても音の輪郭が崩れるようなことは一切なく、好きなようにウーファーとのバランスを取る事が出来ました。

更に空いている2チャンネルで、片側のウーファーをBTL接続してみたところ、そちら側の力感、実在感は飛躍的にアップしました。

実はこのアンプ、ヤフオクに2台並んで出品されていたのですが、商業用の6チャンネルパワーアンプで、結構な値付けだったので入札全くなしでした。
でっ、初めから1台購入して実験し、結果良ければもう1台もと考えていましたので、間髪入れずに即落〜!!

BTL接続できるステレオアンプ6台がこの値段でと考えるとかなりのお買い得品でした。

はじめ、片側のサブウーファー、ウーファー、ドライバーをこのアンプ1台で全てBTL接続しようと考えていたのですが、試しに実験したところ、ドライバーの音は今まで使っていたクラウンD-60の方が繊細で優しく、かつ芯があるという好ましい音でした。
こちらの高域はほんのわずかですが暴れ気味で棘があり、チョット品のない音に聴こえました。

という訳で、現在はCP-660を左右1台づつ使い、それぞれ1,2チャンネルにサブウーファーを、5,6チャンネルにウーファーをBTL接続しています。

ここで、今までウーファーに使用していたD-60が1台空きましたのでツィーターに使用する事にしました。
ツィーターにはYAMAHAの古〜い安物のオーディオアンプを使っていたのですが、9,000Hz 以上で使うものなのに、こんなに差が出るの〜と言うぐらい音質が向上してしまいました。

やっぱり、どんな所にも手は抜けませんね。

最終的にシステムを組みなおして試聴した時の感想は、まったく、別物〜!!

今までなんとなく低音部に不満を持ちながら聴いてきたのですが、実際変わってみると、想像していた以上の満足感を味わえました。

サブウーファーの音量は確かにアップしましたので、迫力が出てくるのは見当がつく事だったのですが、それ以上に音の実在感のアップは感涙モノです。
音の輪郭が崩れず、シャープで中身も詰まっていてグラマラスです。

この傾向は低音部のみならず、中低音から中音部まで及ぶようです。

女性の声の低い部分なども生々しく伝わってきます。

これらはただ単にパワーが大幅にアップしたという事だけが原因ではありませんね。
やはり、色々な要素が重なって電源が安定し、電源に歪が乗らないのが一番大きい事なのではないでしょうか。

スピーカーは音を発生させるという仕事を行うのですが、原理的にはマイクと同じで、音を拾うこともできます。
部屋で音楽を再生した場合、片方のウーファーにはもう片方のウーファーから出る音が働きかけ、コーン紙を揺さぶります。 揺さぶられたコーン紙は磁界に置かれたボイスコイルを振動させ、ここに電流を発生させます。

これを逆起電力と言いますが、この電流は、スピーカーからアンプに戻る電流に載り、アンプのグラウンドラインに侵入します。行きと帰りで違う波形の電流が流れてしまいますのでこの時歪が発生する事になりますが、BTL接続ではスピーカーのマイナス端子には繋がれていないのでこの心配がありません。

これがメリットに書きました 『回路のグラウンドに出力の信号電流が流れないことによる、アンプの帰還ラインの混変調歪の低減』 という事なのですが、この逆起電力による帰還電流の不整合性は電源波形にも影響を及ぼすとの記述も見られますから、この接続によるメリットは計り知れないものがあるのではないでしょうか。

一方、デメリットに書かれているようなマイナス要素はうちでは全く気になりませんでした。


今の音を聴いてみて、オーディオマニアの方々が最後は重低音の再生にこだわり、その部分にとんでもない資金を投入する気持ちが分からなくはないと言えるような気持ちになりました。

普通の音源でも相当良くなったと思えるのですが、一部、今まで低音部に非常な不満があった音源が激変し、まったく再生できていなかった音が溢れ出すように聴こえた時は、本当に感動しましたから。

空気の揺れが感じられるようなドラミングを味わってしまうと更に一歩踏み出してみたいような衝動に駆られ始めてしまいます。

この先は、あれの導入かぁ〜!!


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