麻瀬憧庵                                 










            

図書館所蔵お薦めアルバム@Jazz 名盤


 ジャズっていう音楽は、もうほとんどクラシックと呼んでも良いものですね。
もちろん、今でも若いミュージシャンはたくさんいて、素晴らしいアルバムを発表してはおりますが、1940年代後半から60年代前半にかけて激しく盛り上がった、熱に浮かされたような高揚感と、張り裂けそうなエネルギー感はとても味わえる物ではありません。

 という訳で、今でもジャズファンの多くの方は、当時残された名盤と呼ばれる物を好んでお聴きになられる訳です。
当然私もそれらのレコードをそれなりの枚数所有していたのですが、CDに切り替わった今、再び買い揃えるなんて事はとても不可能な事だった訳ですが、稲城市立中央図書館出現のおかげで、それらを再度聴く事が出来るようになりました。

 当時活躍していたミュージシャンは、各人何枚もの名アルバムを残しているのですが、それらのうちのかなりの数のアルバムが図書館の棚に並んでいます。
おかげで、私も迷わず全てのレコードを手放す決心がつきました。

 これら図書館所蔵の名アルバム、特に私が気に入った物を中心に紹介していきたいと思います。


アルファベット順に行きますと、まずはこの人。
「アート・ブレーキ―」です。 こちらは邦題『モーニン』と名付けられて売り出されたアルバムです。

 表題曲の『モーニン』はこのグループの代表曲とも言える物で、日本に来た時は必ず演奏していたみたいですね。私も生で聴いた事があります。
 この時、テナーサックスを吹いていたのはベニー・ゴルソンなんですが、彼は作・編曲のみならず、音楽監督としてこのグループの音を作っていました。
 ハードバップの荒々しさだけでなく、素晴らしいアンサンブルをも備えた、完成度の高い1枚になっています。

 同じくアート・ブレーキー『チュニジアの夜』 です。

 当時の日本に一大ファンキーブームを巻き起こしたと言われる1曲目のこの表題曲、のっけからアート・ブレーキーが叩きます。叩いて叩いて叩きまくります。超目立ちたがり屋の面目躍如。これでもかという位、叩き倒します。
はじめて聴いた時は圧倒されましたぁ〜。

 ここでトランペットを吹いているのが リー・モーガン。(上もそうです)  20歳位でこのグループに招かれた事で分かるように、クリフォード・ブラウンに匹敵するほどのテクニックと、ユーモアあふれる演奏がとても魅力的です。テナーサックスはウェイン・ショーターに変わっています。
 アート・ブレーキ―はマイルス・ディビスと並んで、才能のある若い演奏者を発掘するのがとても秀でていて、ここから巣立った名プレーヤーがたくさんいます。
 ウェストコーストジャズを代表するアーティストとして有名な
「アート・ペッパー」『ミート・ザ・リズムセクション』 です。
 ここで共演しているのは、当時のマイルス・コンボのリズムセクション。 レッド・ガーランド(P)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)という顔ぶれ。彼らのエッジの利いた音と、ホンワカ柔らかくて仔細なペッパーのアルトの音色は、完全には溶け込む事はなく、それがチョットした緊張感を生み出しているようです。
 このアルバムは「コンテンポラリー」 というレーベルなんですが、ブルーノートと同じく音の良いレーベルとして有名で、ここでのペッパーのアルトも、優しく軟らかく温かみのある艶を備えているのにクール、という素晴らしい音が、厚みを伴って左チャンネルスピーカーのすぐ後ろちょっと上に、ポッカリと現れます。


 こちらもアート・ペッパーの最晩年の作品
邦題 『網走コンサート』 と呼ばれているようです。
 その名の通り、1981年11月に網走市民会館で行われたライブを収録した物なのですが、これ、ツアーに同行していた身内の一人が持っていたカセットテープレコーダーでモノラル録音されたものだそうです。(ソニーのカセットデンスケかしら?)
 ところが、これがとてもカセットとは思えない良い録音なんですよ。結構クリアーでかなり生々しくもあります。

 そしてそれ以上の驚きは、ペッパーの演奏。
若い頃の甘く、柔らかでスタイリッシュな物とは大違い。もう魂がほとばしる様な激しい演奏で、1曲目聴いた時には「コルトレーンじゃないのう?」 と思った位たまげた演奏スタイルになっています。 こういう吹き方してると皆さんすぐにお亡くなりになってしまうんですよねぇ。 これ発売されたのは日本だけかも。
 超有名なピアニスト 「ビル・エバンス」
ボートレイト・イン・ジャズです。

 スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)とのトリオは、ピアノトリオ史上最高と言っても過言ではないと言える位、完璧な演奏を聴かせてくれます。
 特にラファロとの絡みは、その他のユニットに於けるピアノとベースの掛け合いとは全く違う、独特の世界を出現させます。

 このアルバムを録音した前年に、自身が参加していたマイルスのセクステットが 『カインド・オブ・ブルー』 というアルバムでモード奏法を完成させますが、これにビル・エバンスが果たした役割は非常に大きいと言われ、確かにその独特のピアノはアルバム全体の雰囲気を支配していたように感じられましたが、このアルバムでもそれに相通じるテイストが色濃く滲み出ています。
 そして、そして、これこそが超有名なライブアルバム
ワルツ・フォー・デビィ です。

 ニューヨークのビレッジ・バンガードで録音されたのですが、あまりの客のマナーの悪さに、本人大嫌いなアルバムだったそうです。確かに客の態度がひどすぎる。ほとんどしゃべり声が聞こえっぱなし。大きな笑い声まで入っています。
 CDになり、当日録音された別テイクが何曲か追加されていますが、エバンスの投げやりな演奏や、モチアンの怒りのドラミング等が聴きとれます。

 この日の録音の10日ほど後に、スコット・ラファロが自動車事故で他界してしまい、この録音がこのトリオの最後の物となってしまいました。
『サムシング・エリス』です。
 「キャノンボール・アダレイ」の名義になっていますが、ほんとはマイルス・ディビスのアルバム。当時マイルスのバンドにいたアダレイを売り出す為に彼の名前を冠したみたいですね。
実際、ソロの取り方を見ても完全にマイルス主導。

 「枯葉」 のマイルスはもう堪らないですね。何度聴いてもイイ。もう蕩けそうになります。

 驚いたのは、ドラムスがアート・ブレイキーだった事。
ここでの彼は、サイドメンに徹しています。誰かのソロパートでもお構いなくしゃしゃり出てくる彼はこのアルバムにはいません。
さすがにマイルスの睨みが効いているんでしょうねぇ。


 トロンボーン奏者、「カーティス・フラー」の代表作
『ブルース・エット』です。

 1曲目の「Five Spot After Dark」は、過去、テレビCMで使われていた事もありますので、ご存知の方も多いんじゃないでしょうか。
 ここでも、ベニー・ゴルソンが作、編曲に深く関わっており、全体的に洒落た感じを強く醸し出しています。
そして、もうブリブリと彼独特の奏法で吹きまくっています。

これは「サボイ」というレーベルから出ているのですが、録音エンジニアは、ブルーノートで名を馳せていた、ルディー・バン・ゲルダ―。非常に評価の高い彼の録音の特徴は、ミキシング時にスタジオの壁や天井を想起させるような反響音を付加し、それにより音場を出現させるという物で、「Five Spot After Dark」には、それが特に色濃く反映され、エンディングテーマではその消え行く反響音をたっぷりと堪能する事が出来ます。

 こちらは 「デクスター・ゴードン」
『アワマン・イン・パリ』

 彼も、ピアノのバド・パウエル、ドラムスのケニー・クラークもアメリカで生き辛くなり、当時ジャズ、及びジャズメンがリスペクトされていたフランスに渡り活動していましたが、そこで吹き込まれた1枚。
 いかにもテナーサックスという厚く、ふくよかな低音と、艶のある高音が存分に楽しめます。ちょっとたどたどしげな演奏もなんとなく味に感じられます。 
 これもジャズ史に残る有名なライブ盤。
「エリック・ドルフィー」
『アット・ザ・ファイブ・スポット』 です。

 エリック・ドルフィーと言えばフリージャズという事だったので、昔は聴いた事もありませんでした。が、図書館にありましたので試しにと借りてきたんですが、全然難しい演奏ではなかったですね。
 比較的分かりやすく楽しめる演奏で、それ以上に録音の生々しさと、ほとばしる様な熱気に圧倒されました。

 特に、トランペットのブッカー・リトルの演奏はエリック・ドルフィーを食ってしまうほど素晴らしいものでした。 
バリトンサックス奏者、「ジェリー・マリガン」
『ナイト・ライツ』です。

 表題曲の「Night Lights」から始まるこのアルバムは、全ての曲の雰囲気が統一されていて、まったり、柔らかく、落ち着いた曲が連なっています。
まさしく、このジャケットのムードそのまま、リラックスした時を過ごせます。

 特にアート・ファーマーのトランペットの音色が何とも言えずに魅力的で、このアルバムの雰囲気の決め手になっているのではないでしょうか。
ギタリスト、「ジム・ホール」の1976年の作品
『コミットメント』(邦題:哀愁のマタドール)です。

 ギターアルバムらしい軽快な1枚。ジャズギターの音って、何んとなく濁っているように感じられてあまり好きではないんですが、これはとてもクリアーで、非常にリラックスして聴ける楽しいアルバムです。特にアート・ファーマーが吹くフリューゲルンホルンの音色とギターの音がマッチして、心地よい時間が過ごせます。

 アルバム構成も良く考えられていて、多重録音によるギターデュオ、ピアノ、ヴォーカル、ドラムスとのデュオ、クインテットによる演奏と、多彩な顔ぶれによる多彩な演奏が楽しめます。
「ジョン・コルトレーン」のライブアルバム
『ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・バンガード』です。

 コルトレーンのリーダーアルバムにおける晩年の演奏は、もうチョットついていけない、聴いていても楽しくないぞ、という感じなんですが、この1961年に録音されたライブ盤は、そこまでわけのわからん演奏には至らず、単純に凄さが伝わってきます。

 3曲目では、演奏時間16分の全てでコルトレーンがソロを取り続けます。まったくもって圧巻の演奏。
 目の前でこの様な演奏を見せられたら、どれほど気持ちを持っていかれてしまうのか想像もできませんね。




ディジー・ガレスビーや、アート・ブレーキーのバンドでトランペットを吹いていた早熟の天才、 「リー・モーガン」
『キャンディ』 です。

 彼は18〜19歳に5枚ほどのリーダーアルバムを出しているようですが、これはその中の1枚、1957〜58年にかけて録音されています。彼唯一のワンホーン作品です。

 1曲目の表題曲「キャンディ」から、彼の魅力もう全開です。
圧倒的なテクニック、超高音まで伸びやかな出音、歌心とユーモアあふれる表現力、想像を絶するイマジネーション。本当に素晴らしい。
 この時代の彼はどのアルバムもどの演奏も楽しいんですが、60年代に入って急速にその輝きを失ってしまったようです。それ以降のリーダーアルバムにおける演奏も全く熱気やオーラが感じられず、全て凡作に感じられてしまいます。

そしてこちら、モダンジャズにおける最重要レジェンド、「マイルス・ディビス」のライブ盤2枚。
『フライディナイト・アット・ザ・ブラックホーク』 と、
『ライブ・アット・ザ・1963・モントレー・ジャズフェスティバル』です。

 マイルスと言えば、『マイ・ファニー・バレンタイン』 と言うとても有名なライブアルバムがあるのですが、それは、この2枚のアルバムのちょっと後、マイルスがいよいよジャズから離れて、フュージョンやロックに向かう少し前の物で、そこでの演奏は、もう緊張感の塊の様で、ピリピリした空気が充満している様な印象を受けました。当然、他のメンバーの演奏もその空気に支配されているようで、何か重圧に押しつぶされそうになりながら、必死になって演奏しているようで、聴いていて非常に重苦しい気分になるアルバムでした。

 まぁ、そういう緊張感がいいんだよとおっしゃるジャズファンも沢山いらっしゃるとは思いますが、それよりは、楽しく気持が高揚してくるような演奏が私の好みなんですが、この2枚のアルバムには、まさにそんな演奏が収められています。

 まぁ、マイルスが吹きまくります。こんだけ音の多いマイルスも珍しいという位吹きまくります。そしてユーモアあふれる明るいトーンも珍しい。
 当然、他のメンバーの演奏も伸び伸びとイマジネーションを弾けさせ、と〜っても気持ち良い演奏が満喫できます。
このアルバム、演奏よりもジャケットで有名なんですよねぇ〜
う〜ん、確かに何とも言えない色気があります。
「ソニー・クラーク」『クール・ストラッティン』 です。

 でも演奏もとても良いですよ。どれもノリの良い曲で、若き日のアート・ファーマーが結構ブリブリと吹いています。
 そしてジャッキー・マクリーン。彼のアルト・サックスの音色は独特です。こんな音は彼のサックスでしか聴けません。う〜ん、渋い。
 そしてこのアルバムの特徴は、とても録音が良い事。
クリアーで生々しい音が眼の前で炸裂します。このトランペットとアルトの音を聴いているだけで、幸福感に包まれます。
 録音は、言わずと知れた、ルディー・バン・ゲルダ―。 
これまた、超有名な1枚。
「ソニー・ロリンズ」『サキソフォン・コロッサス』

 ロリンズの代表作としてこのアルバムをあげる人は非常に多いんですが、それも納得の最高の1枚。

 一度聴いたら忘れられないキャッチーなテーマで始まる「セント・トーマス」をはじめ、どれもこれもロリンズが吹きまくります。
ブリブリ、ブリブリ、もう大変な迫力。圧倒的なパワーとテクニック、アルバム1枚吹き通します。

 1956年録音という事で、モノラルなんですが、全然気にならない位良録音。それもそのはず、こちらも ルディー・バン・ゲルダ―の録音です。
 同じくロリンズのアルバムですが、こちらはロスアンゼルスに設立された「コンテンポラリー」というレーベルから出た
『ウェイ・アウト・ウエスト』 です。

 テナーサックス、ドラムス、ベースというピアノレスのトリオ編成。にもかかわらず、十分な音の厚さがあり、全く物足りなさを感じません。やはり、ロリンズのサックスの豊かな量感が眼の前の空気を音で満たしてくれるからでしょう。

 又、このコンテンポラリーというレーベルは音の良さでも定評があり、ブルーノートが人工的に色づけをした音だとすると、素直で自然な、現在のHi-Fiに通じる奥行き感の伴った澄んだ音が楽しめます。
「ズート・シムズ」のイギリス録音盤 『クッキン!』です。

 このライブアルバムは、かつて入手不可能な時代もあった幻の名盤だそうですが、彼のリーダーアルバムの中で唯一所蔵されているなんて、稲城図書館員、なんてお目が高いんでしょう。

 このアルバム、ピックアップされた瞬間に目の前にライブ空間が広がります。その音場感、再生される音の生々しさ、特にシンバルの音には驚かされます。その中で、彼のテナーサックスが、メロディアスにかつスイング感たっぷりに奏でられます。
 イヤ〜、楽しい。彼の演奏はどんな時も心を浮き立たせてくれます。全ての曲が楽しいですよぅ〜。

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