麻瀬憧庵                                 

オーディオ雑記帳その7


 2024年1月2日
指向特性への疑問

 昔、昔、ジャズ喫茶などで聴くJBLスピーカーから出てくる生々しいシンバルの音に度肝を抜かれ感激し、それ以降現在に至るまで、その頃売られていたJBLスピーカーを愛用しているのですが、自分で使うようになり、それらスピーカーの周波数特性を知る事により、その時に感じた生々しさの秘密を理解することになりました。
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2)

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 左のグラフ 1)は1インチドライバーのJBL24612)はツィーターのJBL24023)も同じくJBLのツィーター2405の素の特性です。

どれらも高域に向かってしゃくれ上がり、9〜12kHzにピークが出来ています。

私が最初に買ったJBLの1インチドライバーLE-85も、周波数特性測定レコードで測った時はこのような傾向でした。

一見すると酷い特性のように見えるのですが、これは、JBLが意図して作った特性なんですね。

ドライバーのダイアフラムを外すと、フェーズプラグと呼ばれるドーム型の金属部分が露出しますが、そこに開けられたスリットによりこの様な周波数特性を作り出しているのですね。
 何故、この様な特性で世に出したかというと、指向特性を考慮したからなのではないでしょうか。

当時のオーディオ機材は、基本的に、劇場や映画館、コンサート会場で使用されることを前提に設計されている訳ですが、広い空間でより多くの人々に良い音を届ける為には、スピーカーの前方だけではなく、なるべく左右広い範囲に音を飛ばす必要があり、音響エネルギーが小さく減衰量の大きい高域に向かって立ち上がる様な特性にすることにより、スピーカーから角度がついた位置にいる人にもより高音が届くようにと考えられたのではないでしょうか

そして、この指向特性は広い方が良いという考えのもと、民生品にもその思想は波及し、ドライバー用のホーンの先端に付けるディヒューザーや、広い指向特性を持つホーンなども生み出されてきたのでしょう。

しかし、この指向特性、狭い部屋で音楽を楽しむ一般的なオーディオファンに必要な物なのでしょうか。

結論から申し上げますと、全く必要がない。 むしろ害になるものであるとすら言えるのではないかと思っています。

もちろん、スピーカーの置き方や聴く位置により、ある程度の指向特性は必要になる場合はあるでしょうが、いずれの場合でも、以下に記述するような弊害が発生していることは紛れもない事実なんです。



1)

2)

3)
 左の図の様に、左側のスピーカーの周波数特性を測定する時は、左の耳に該当する場所にマイクを置き測定します。

1)は左側のスピーカーの周波数特性。 2)は右側のスピーカーの周波数特性(マイクは右耳の位置)

そして3)は、左耳の位置にマイクを置いて、両スピーカーから同時に同じ音を出した時のグラフです。

1kHz位までは単純に音量がアップしていますが、それ以上の周波数では大きな山谷ができ、凸凹が超高域まで続いています。

どうしてこの様になるのかというと、位相が関係しているのですね。

音は波のようにして伝わってきます。その波の1周期を波長と呼びますが、その波長は周波数により変わってきます。

そしてその周期にズレのない波が重なりますと、足し算され大きな波になりますが、ちょうど半周期ズレた波が重なりますと、引き算され小さな波になります。(両方が同じ大きさの波だとゼロになってしまいます。)

3)のグラフの1,600Hz辺りにディップがありますが、この時の波長を計算すると
320m(音速)÷1,600(周波数)=0.2m(=20cm)

つまり、1,600Hzの音の1波長は20cmということになり、半周期ズレると10cmということになりますが、図の両スピーカーから左耳のマイク位置までの距離の差にまさしく該当します。
 この上の周波数でも、周期が重なった部分は盛り上がり、半周期ズレた周波数では大きなディップが発生しています。

本来、ヘッドフォンで聴くように、左チャンネルの音は左耳だけに、右チャンネルの音は右耳だけに届くのが理想なのです。
スピーカーの指向特性が優れていればいる程、反対側の耳に届くエネルギーは強くなり、3)のグラフのような悪影響がより強く現れますので、過度な指向特性は全くもって不必要な物なのです。


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